Δ12-脂肪酸デサチュラーゼ

Δ12-脂肪酸デサチュラーゼ

Δ12-脂肪酸デサチュラーゼ（Δ12-fatty-acid desaturase）は、脂肪酸代謝において特定の化学反応を触媒する酸化還元酵素の一種です。

この酵素が関与する主な化学反応は以下の通りです。

アシルCoA + 還元型受容体 + O₂
⇋ Δ12-アシルCoA + 受容体 + 2 H₂O

この反応において、基質となるのは、活性化された脂肪酸であるアシルCoA、特定の還元型受容体、そして分子状酸素（O₂）です。酵素の働きにより、これらの基質はΔ12位に新たな二重結合が導入されたアシルCoA（Δ12-アシルCoA）、酸化された受容体、そして水（H₂O）へと変換されます。

この酵素の生化学的な役割の中で特筆すべきは、炭素数18でシス型の二重結合を一つ持つ脂肪酸であるオレイン酸（18:1）に対する作用です。Δ12-脂肪酸デサチュラーゼは、オレイン酸のアシルCoA体を基質として利用し、その炭素鎖のメチル末端から数えて12番目の炭素原子（Δ12位）に新たな二重結合を導入します。この反応の結果生成されるのが、炭素数18で二重結合を二つ持ち、ω-6系列に属する重要な脂肪酸であるリノール酸（18:2）のアシルCoA体です。

リノール酸は多くの動物にとって体内で合成できない必須脂肪酸であり、食事を通じて摂取する必要があります。興味深いことに、Δ12-脂肪酸デサチュラーゼは動物には存在しない酵素です。この酵素は、主に植物や微生物において機能しており、これらの生物がリノール酸を合成する能力を持つ主要な理由の一つとなっています。植物や微生物におけるリノール酸の合成は、細胞膜の構成成分としての機能や、他の重要な脂質（例えば、アラキドン酸などの多価不飽和脂肪酸）の前駆体としての役割を果たす上で不可欠です。このような存在の違いは、生物界における脂肪酸代謝経路の多様性と進化を示唆しています。

本酵素は、公式にはacyl-CoA, hydrogen donor:oxygen Δ12-oxidoreductaseという組織名で分類されています。学術文献やデータベースにおいては、Δ12 fatty acid desaturase、Δ12(ω6)-desaturase、oleoyl-CoA Δ12 desaturase、Δ12 desaturaseなど、複数の別名でも参照されることがあります。

Δ12-脂肪酸デサチュラーゼに関する研究は、植物における油脂組成の改良や、微生物を用いた有用脂肪酸の生産、さらには昆虫のフェロモン生合成経路の解明など、様々な応用分野に関連しています。

総じて、Δ12-脂肪酸デサチュラーゼは、脂肪酸の炭素鎖に二重結合を特異的に導入し、特に植物や微生物におけるリノール酸の生合成という、生物にとって非常に重要な機能を持つ酸化還元酵素です。

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