Π (映画)

『π(パイ)』は、1998年にアメリカで製作された、ダーレン・アロノフスキー監督によるモノクローム映画です。低予算作品ながら、その斬新な映像表現、難解で刺激的なストーリー展開、そしてテクノミュージックを効果的に用いたサウンドトラックが高く評価され、1998年度サンダンス映画祭では最優秀監督賞をはじめ、数々の賞を受賞しました。

本作の主人公は、マックス・コーエン。常人離れした高い知能指数を持つ一方で、社会生活への適応に苦しむ数学者です。彼は自作のスーパーコンピュータを用いて、株式市場の予測に日々取り組んでいます。マックスは、「世界に存在する全ての事象は、それぞれ固有の数式で理解できる」という信念を持っています。

ある日、マックスのコンピュータは、216桁にも及ぶ巨大な数字列を出力します。この数字列は、かつて[円周率]の研究に没頭していたマックスの師、ソルが到達した数字と関連していることが判明します。この不可解な数字列の出現をきっかけに、マックスは216桁の数字が持つ、不思議な魔力、あるいは隠された意味にとりつかれていきます。

映画は、マックスの精神状態の不安定さを、モノクローム映像と、不穏で緊張感あふれるテクノミュージックによって効果的に表現しています。彼の妄想と現実の境界線が曖昧になり、視聴者は、マックスと共に謎解きを進めていくかのような、スリリングな体験をすることになります。

『π』は、単なる数学パズル映画ではありません。現代社会におけるテクノロジーと人間の関係、天才と狂気の狭間をさまよう人間の脆さ、そして人間の知的な探究心と限界といった、様々なテーマを複雑に織り交ぜた作品です。

監督・脚本を務めたダーレン・アロノフスキーは、本作で独自の映像表現とストーリーテリングを確立し、後のキャリアにおいても大きな影響を与えました。また、クリント・マンセルによる音楽も、映画の雰囲気を決定づける重要な要素となっています。複雑な構成と独特の世界観を持つ『π』は、一度観たら忘れられない、強烈な印象を残す映画と言えるでしょう。

スタッフ・キャストには、監督・脚本のダーレン・アロノフスキー、製作のエリック・ワトソン、撮影のマシュー・リバティーク、音楽のクリント・マンセル、編集のオレン・サーチらが名を連ねています。主演はショーン・ガレット。日本版の声優には、磯辺万沙子、小室正幸、沢木郁也、竹口安芸子、大川透、小形満、すずき紀子、山川亜弥、松下惇らが参加しています。日本語版制作スタッフは、演出：戸田清二郎、翻訳：久保喜昭、調整：蝦名恭範、録音：KSSスタジオ、プロデュース：小原里江子（クロックワークス）、別府憲治（ケイエスエス）です。

『π』は、その独創性と高い芸術性から、多くの映画ファンや批評家から絶賛され、今もなおカルト的な人気を誇る作品です。数学やテクノロジーに興味のある方だけでなく、複雑で刺激的な物語を好む方にも強くお勧めできる、傑作映画です。

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