「坊っちゃん」の時代

『坊っちゃんの時代』

『坊っちゃんの時代』は、1987年から1996年まで『漫画アクション』にて連載され、関川夏央が原作、谷口ジローが作画を担当した劇画作品です。この作品は、夏目漱石や明治の文学者たち、そしてその時代背景を豊かに描写しており、一般には痛快な読み物として広く受け入れられていますが、実際には文明開化の時代に取り残された人々の悲劇を深く掘り下げたものでもあります。

構成とテーマ

全5部からなるこの作品は、漱石を中心に、彼が『坊っちゃん』を執筆していた時代の文士たちや社会風俗を取り上げています。その中で、関川は漱石の創作と神経症を絡めて、『坊っちゃん』という作品がどのように生まれたのかを探りながら、当時の磨かれた文芸が顕れた背景を描き出しました。

このシリーズは、関川が作中に実在の文学者や文化人を登場させ、「もしもこの人たちが出会っていたら」という独自の仮定を盛り込む手法を採用しており、これには山田風太郎の明治ものからの影響が見られます。

第一部「坊っちゃん」の時代

作品の第1部では、東京のビアホールでの出会いをきっかけに親しくなった夏目漱石とその仲間たちが描かれています。特に、太田仲三郎という実在の学生が登場し、彼をモデルにした太田仲三郎の手記『明治蹇蹇匪躬録』を基に物語が展開します。ただし、作中の人物の多くは創作のキャラクターであり、リアルな歴史とは異なっています。漱石の仲間として描かれるのは、社会運動家やインテリ層であり、彼らの交流を通じて明治の世相が浮かび上がります。

第二部「秋の舞姫」

次の部では、二葉亭四迷と森鴎外の出会いに至る舞姫事件を取り上げ、二葉亭の死を導入部に描きます。この部分では、舞台を20年代に移し、若き日に恵まれた文化的背景が浮き彫りになり、外部の人物との交流の重要性も強調されます。

第三部「かの蒼空に」

第三部では、詩人・石川啄木とその友人金田一京助が中心となり、文士たちの背負った苦悩や享楽的な側面を掘り下げています。啄木は、貧困にあえぎつつも明るい一面を持っていたことが描かれ、彼の人間性に迫ることで、彼の詩人としての姿が浮かび上がります。

第四部「明治流星雨」

第四部では、大逆事件やその首謀者に焦点を当て、近代日本の転機となる事件の背景や経緯が詳述されています。この作品を通じて、歴史的出来事が個々の人生に与えた影響を探っており、文学と政治が交錯する瞬間が描かれます。

第五部「不機嫌亭漱石」

最後の部では、漱石の晩年を舞台に、彼の周囲の人々との交流を通じて内面を描写しています。修善寺での病気を背景に、漱石の過去の人々が登場し、彼自身が見つめ直す姿が描かれています。この作品集は、全体を通して漱石やその時代の人物を多角的に再評価する試みといえるでしょう。

書籍情報

本作は、1987年から1996年にかけて単行本として出版され、さらに文庫版、愛蔵版、新装版など多様な形態で読者に届けられました。特に、2021年から2022年にかけて出版された谷口ジローコレクションは、現在も多くのファンに支持されています。

『坊っちゃんの時代』は、ただの漫画ではなく、時代を超えて文学と人間ドラマを訴求する作品として、今後も多くの読者を惹きつけることでしょう。

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