あちらにいる鬼

小説『あちらにいる鬼』の概要

井上荒野の小説『あちらにいる鬼』は、2016年から2018年にかけて読者を魅了した作品で、のちに2019年に単行本として発表されました。2021年には文庫版も登場し、さらには2022年には映画化もされています。原作は、井上荒野の父である井上光晴と、著名な作家である瀬戸内寂聴との不倫関係がモチーフとなっており、特に瀬戸内がこの作品に関わったことで話題を集めました。彼女は、自らの容姿が描かれた作品を傑作と認め、その出来栄えに感動したと語るほど、作品への期待感が高まったのです。

あらすじ

物語の舞台は1960年代。小説家の長内みはるは、社会派作家の白木篤郎に心を奪われ、不倫の道に足を踏み入れます。白木篤郎は、愛人の自殺未遂を妻である笙子に押し付けるなど、自身の欲望に従った行動が目立つ男。しかし、みはる自身も若き日に愛人と駆け落ちし、夫と子供を捨てた過去があるため、彼女もまた影を抱えた女性なのです。

不倫は10年にもわたって続きますが、みはるは将来への不安から関係を断とうと決意します。「出家したい」という意志を持つ彼女に、笙子は得度式に参加するよう篤郎を誘います。その夜、みはるが出家した姿で篤郎に自らの寝室に忍び込む場面は、彼の心に何を残すのでしょうか。それを察した笙子は、夫とみはるの関係を全て承知した上で、仕返しの浮気を試みるも未遂に終わります。

尼となったみはる（寂光）は、笙子の家に招かれ、温かい家庭の一員としてもてなされるようになります。これは二人の間に奇妙な絆が築かれていたからこそでしょう。そして、時が経つにつれ、篤郎が病に倒れた際には、笙子は寂光を病院に呼び寄せ、二人で彼を見送るという壮絶な場面が描かれます。

登場人物

• - 長内みはる: 作家で、モデルは瀬戸内寂聴。彼女の人生は複雑な人間関係に満ちている。
• - 白木篤郎: 人気作家で、みはるの恋人。モデルは井上光晴。自己中心的な性格が目立つ。
• - 白木笙子: 篤郎の妻。彼女は恵まれない中でも家族を支える立場にいる。
• - 岸光太郎: みはるの仲間で、篤郎に心酔している。
• - 真二: みはると同棲している男性。
• - ヤエ、白木サカ、白木海里、白木焔: 篤郎と笙子の家族。

書誌情報

井上荒野の『あちらにいる鬼』は、2019年に朝日新聞出版から発行され、文庫版は2021年に出版されました。

映画化

2022年11月11日に公開された映画は、廣木隆一監督による作品であり、寺島しのぶと豊川悦司が主演を務めました。R15+指定の内容であり、物語の奥深い人間ドラマを美しく描き出しています。キャストには広末涼子や高良健吾などが名を連ね、原作の魅力を新たに映画の形で伝えています。

作品全体を通じて、愛と裏切り、そして許しというテーマが織り込まれた『あちらにいる鬼』は、ただの恋愛小説ではなく、登場人物全員が抱える人間の業を描いた深い作品なのです。

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