あばれ天童

『あばれ天童』（あばれてんどう）は、日本漫画界の大家である横山光輝によって描かれた少年漫画作品です。秋田書店の『週刊少年チャンピオン』にて、1974年18号から1975年39号にかけて連載され、全74話で完結しました。

横山光輝が歴史大作『三国志』の執筆に取り組んでいた時期に、当時流行していた本宮ひろし氏の『男一匹ガキ大将』に代表される番長グループによる抗争というジャンルに挑戦した作品です。作者自身は本作の執筆にあたり、「新人に戻ったつもりで書いた」と述懐しています。横山作品としては珍しく、少年向けの学園を舞台にした長編漫画は本作が唯一であり、また、荒々しい喧嘩の場面にユーモアを織り交ぜるなど、それまでの作風とは一線を画す異色作としても知られています。

主な登場人物

山城天童（やましろてんどう）: 物語の主人公。関東の若葉学園に転校してきた高校生。スポーツ万能で、喧嘩においては圧倒的な強さを誇ります。剣術の秘技「霞切り」を使えますが、武器を用いた戦いを嫌います。基本的には温厚で争いを好まない性格ですが、いざという時の強さと仲間思いの優しさから、多くの者から「兄貴」と慕われます。実は大企業・山城グループ総帥の嫡男。
石倉: 黒住工業高校の番長。かつては一匹狼でしたが、以前の学校で天童に出会い、その器量に感化されて以来、彼を兄貴分と仰ぐようになります。
佐々頑鉄（ささがんてつ）: 巨体を持ち、怪力自慢。相撲部屋からスカウトが来るほどの人物です。石倉と同じく以前の学校で天童と出会い、彼に絶対的な信頼を寄せます。顔の傷は、かつて子分をヤクザから助けられずにいた際、天童が助けてくれた一件で負ったものです。
木崎佳男（きざきよしお）: 通称「キザ男」。スカーフを巻き、女性のような言葉遣いをしますが、喧嘩の腕は立ち、俊敏な動きで相手を翻弄します。
ハヤテ: 名阪地区を支配する最強の暴走族「地獄の天使」のリーダー。天童を兄貴と慕う仲間の一人です。
栄徳（えいとく）: 天童が身を寄せている興安寺の和尚。天童を慕って集まる若者たちを時に叱りながらも、温かく見守り、寝食を提供します。興安寺は山城家の菩提寺でもあります。
柚木勝彦（ゆずきかつひこ）: 番長連合を束ねる大番長。剣道の全国大会優勝者であり、地位ある人物の息子。自身の豪邸を連合の本部としています。
犬神慎一（いぬがみしんいち）: 関西のヤクザ犬神組組長の息子。幼い頃に父から受けた折檻が原因で性格が歪み、暴力に走るようになります。
山城喜春（やましろよしはる）: 天童の異母弟。血の繋がりはありませんが、天童とは非常に親密な関係です。幼少期の事故で車椅子を使用しており、兄が家に戻ることを願っています。
柚木恵美子（ゆずきえみこ）: 通称「バラの君」。花園学園のマドンナで、大番長柚木の妹。天童に助けられたことから彼に惹かれます。
岩佐綾子（いわさあやこ）: 通称「すみれの君」。若葉学園のマドンナ。天童に心を寄せ、彼や仲間たちの世話を焼きます。
乾美保子（いぬいみほこ）: 通称「ひまわりの君」。天童の大阪時代のガールフレンドで、裕福な家庭の令嬢。天童との結婚を望み、若葉学園に転校してきます。

物語の展開

物語は、圧倒的な強さを持つ転校生・山城天童が、若葉学園で注目を集めることから始まります。彼の子分となった千葉と船橋が、花園学園のマドンナ柚木恵美子に手を出したとして、番長連合傘下の黒住工業高校グループに暴行される事件が発生。しかし、現場に天童が現れると、黒住工高の番長・石倉は態度を急変させます。石倉にとって天童は、かつて兄貴と慕っていた存在だったからです。天童への態度を番長連合から咎められ、石倉はリンチを受けます。それを知った天童は事態を収拾しようと話し合いに臨みますが、番長連合側の挑発により喧嘩となり、相手の一人を打ち負かします。

一方、石倉が天童との再会をかつての仲間に伝えたことから、巨漢の頑鉄、喧嘩好きなキザ男、暴走族リーダーのハヤテなど、全国各地で天童を慕う仲間たちが東京に集結。彼らは夏休み中に番長連合との決着をつけようと、天童に内緒で番長連合を挑発し始め、それぞれの子分たちも呼び寄せます。この動きを警告したのが、柚木恵美子の兄であり、番長連合の大番長・柚木勝彦でした。天童は全面衝突を避けようと尽力しますが、戦いは避けられない状況となります。石倉は大番長柚木に、天童を巻き込まない形での対決状を送り、高取山にて番長連合2000人対天童の子分たち300人による壮絶な決戦が勃発。そこへ天童も駆けつけ、大将同士の一騎打ちの末、柚木は天童に敗北。番長連合は解散し、天童と和解します。

番長連合の解散を聞きつけた関西のヤクザ犬神組の息子・犬神慎一が東京に現れます。ヤクザの予備軍として番長連合に目を付けていた犬神は、解散の原因を作った天童に敵意を向け、石倉を襲って天童をおびき出そうとしますが失敗。天童側に立った柚木も加勢し、犬神は孤立します。怒った犬神は、ヤクザ抗争のために逗留していた凄腕の刺客・岩見に天童襲撃を依頼。しかし、天童を知る岩見はこれを拒否し、逆に犬神に天童と友達になるよう諭します。結局、ヤクザ同士の抗争で犬神の父や岩見が命を落とし、犬神は自身の愚かさに気づいて天童に謝罪。天童は彼を友達として受け入れることを約束します。

犬神組との一件が落ち着くも、今度は山城グループ総帥である天童の父が、天童に家に戻り跡を継ぐよう求めます。しかし天童は、その暮らしが自分には合わないと拒否。その頃、番長連合の消滅により、東地区の番長たちが西地区への支配を狙い動き始めます。天童は夜な夜な喧嘩に明け暮れる日々を送るようになり、警察沙汰となった結果、山城家の屋敷で謹慎処分を受けます。しかしその間に、東地区グループが石倉らを襲撃。事態は全面対決へと発展します。家を抜け出した天童は、自身の家庭事情による不良の振る舞いが原因で事態が悪化したと仲間たちに謝罪。これを聞いた皆は和解します。その後、海外へ行きたいという天童の希望が父に認められ、彼は仲間たちに見送られ、日本を旅立っていくところで物語は幕を閉じます。

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