ある男

小説『ある男』の概要

概要

平野啓一郎の長編小説『ある男』は、2018年に『文學界』で掲載された後、同年9月30日に刊行されました。この作品は第70回読売文学賞を受賞し、2022年には映画化もされています。映画は石川慶監督、妻夫木聡主演で、数々の賞も受賞しました。

あらすじ

物語は、横浜に住んでいた里枝が離婚後、幼い息子を連れて故郷の宮崎に戻るところから始まります。彼女はそこで谷口大祐という男性と再婚し、新たな家族として女児を迎え、穏やかな日々を送ります。しかし、数年後、大祐は事故で亡くなってしまいます。

そんな折、亡き大祐の兄である恭一が法要に訪れ、遺影に映った人物が自分の弟ではないと主張します。里枝は、自分が結婚していた男性の正体に疑念を抱き、離婚調停の際に世話になった弁護士の城戸章良に、身元調査を依頼します。

城戸は、調査の途中で戸籍売買に関与して逮捕された小見浦という老人に接触します。彼と面会した城戸は、自らが在日朝鮮人であることを見抜かれ、戸惑いながらも、小見浦から曽根崎という名前を伝えられます。この曽根崎は、谷口大祐の本来の身元に関係している可能性がある人物です。

城戸は調査を進める中で、亡き大祐が実家との関係が悪く出奔したことを知ります。そして大阪で恋人である美涼の話を聞くことになります。さらに、強盗殺人犯の描いた絵に興味を持ち、その絵を実際に見た城戸は、Xという男が描いた絵との共通点を発見します。これにより、過去の事件と現在の調査が密接に関わっていることが明らかになっていきます。

調査の結果、里枝の亡夫が実は誠という男であったことが判明します。誠は小見浦から名字を購入し、大祐として生活していたのです。里枝は、誠が父親の墓すら作れなかった理由を息子に伝え、家族の絆を深めます。

美涼は、誠と大祐の関係を明らかにするために、自らが大祐になりすましてSNSを利用していたことも白日の下に晒されます。最終的に、本物の谷口大祐が自分を取り戻すシーンは、物語を締めくくる重要なポイントとなります。

登場人物

• - 城戸章良: 弁護士。里枝からの奇妙な相談を受ける。
• - 谷口里枝: 城戸の元依頼者であり、亡夫の調査を依頼する。
• - 谷口大祐: 里枝の再婚相手。
• - 後藤美涼: 大祐の元彼女。
• - 谷口恭一: 大祐の兄で、遺影の真実を知る。

映画化

この物語は2022年に映画化され、ヴェネツィア国際映画祭にも出品されました。監督は石川慶、主演は妻夫木聡。その内容は多くの観客に感動を与え、国内外の映画賞を受賞しました。

まとめ

『ある男』は、一つの家族の背景に潜む謎と人間ドラマを描いており、読者に深い思索を促す作品です。人間の関係やアイデンティティの問題が交錯する中で、真実を求める里枝と城戸の苦悩が鮮やかに描かれています。

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