あれが岬の灯だ

あれが岬の灯だ

「あれが岬の灯だ」は、日本の歌手である橋幸夫によって歌唱され、1960年8月20日にビクターレコードからリリースされた彼のセカンドシングルです。レコード番号はVS-378。この楽曲は、橋幸夫の初期のキャリアを支えた作詞家・佐伯孝夫と作曲・編曲家・吉田正という、まさに彼の恩師ともいえるゴールデンコンビによって制作されました。

楽曲の誕生と背景

橋幸夫は、ビクターレコードのオーディションに合格し、当時名声高かった作曲家の吉田正氏に師事することとなりました。師である吉田氏と、長年のパートナーである佐伯孝夫氏は、橋幸夫のデビューに向けて複数の候補曲を用意しました。具体的には、「潮来笠」「伊太郎旅唄」「あれが岬の灯だ」「君恋い波止場」の四曲です。これらの楽曲のうち、「潮来笠」と「伊太郎旅唄」は、橋幸夫の鮮烈なデビューを飾るシングル「潮来笠」として1960年7月に先行して発売されました。そして、その一ヶ月後、残る二曲である「あれが岬の灯だ」と「君恋い波止場」が、彼の二枚目のシングルとして世に送り出されたのです。

橋幸夫自身の思い入れ

橋幸夫は、実はこの「あれが岬の灯だ」に対して格別な思い入れを持っていました。デビュー前のレッスン中に吉田正氏からどの曲が好きかと尋ねられた際、彼は迷わずこの曲の名前を挙げたと後に明かしています。彼は学生時代からロカビリーやギター演奏に親しんでおり、自身の中にあった音楽的志向から、「あれが岬の灯だ」のような曲調でのデビューを期待していました。対照的に、実際にデビュー曲となった「潮来笠」は純粋な日本調の股旅物であり、当初は自身の音楽性と異なることに多少の戸惑いを感じたといいます。しかし、「潮来笠」が大成功を収めた結果を見て、自身の希望するスタイルではなく、彼の可能性を最大限に引き出す方向性を選んだ佐伯・吉田両氏の判断こそが「正に慧眼であった」と認め、深く感謝しています。

吉田正による歌唱評価

作曲者である吉田正氏は、橋幸夫による「あれが岬の灯だ」の歌唱を高く評価していました。彼は、橋幸夫の歌声が「高音になっても甘さを失わずに良く伸び、楽曲が持つ情感や味わいを十分に表現できている」と評しており、橋幸夫の才能に対する信頼を示しています。

市場での位置づけと実績

本楽曲がリリースされたのは、デビューシングル「潮来笠」が発売され、まさに大ヒットの兆しを見せ始めていた時期でした。そして、「あれが岬の灯だ」の発売後まもなく、早くも3枚目のシングル「おけさ唄えば」がリリースされるという、非常に短い間隔で新曲が投入される戦略が取られました。橋幸夫自身は、この状況を振り返り、「個人的には非常に好きな曲だったのですが、『潮来笠』という代表作と、すぐに続いた『おけさ唄えば』という次のヒット候補に挟まれる形になり、シングルとしてはどちらかというと地味な存在になってしまった」と述懐しています。しかし、商業的な側面を見ると、この楽曲は1961年の年間集計で約10万枚という売上を記録し、この実績が評価されてビクターレコードの年間ヒット賞を受賞しています。本人の主観とは異なり、多くの人々に聴かれ、十分に商業的な成功を収めた楽曲であったと言えるでしょう。

シングル収録曲

シングル盤VS-378には、A面曲として「あれが岬の灯だ」が収録されています。B面曲としては、「君恋い波止場」が収められています。こちらも作詞は佐伯孝夫、作曲・編曲は吉田正が手掛けた作品です。

アルバム収録状況

「あれが岬の灯だ」は、橋幸夫の代表曲が多く収録される一般的なベストアルバムには、比較的収録される機会が少ない楽曲です。しかし、一部の記念盤やCD-BOXなどには収められています。

『橋幸夫が選んだ橋幸夫ベスト40曲』（2000年10月4日発売、VICL-60641～2）
CD-BOX『橋幸夫大全集』（1993年9月発売）Disc1に収録
CD-BOX『橋幸夫ベスト100+カラオケ15』（2015年10月発売）Disc1に収録
『吉田正大全集』（1997年9月発売）Disc4にも、作曲者・吉田正の作品として収録

まとめ

「あれが岬の灯だ」は、橋幸夫のキャリアの極めて早い段階に位置する楽曲であり、彼の個人的な音楽的ルーツや、プロ歌手としてのデビューへの期待が投影された、思い入れの深い一曲です。大ヒットした「潮来笠」やそれに続く楽曲の陰に隠れた感は本人も認めていますが、年間ヒット賞を受賞するほどの売上を記録しており、商業的にも成功を収めた作品です。恩師である佐伯孝夫、吉田正両氏との初期の共同作業を示す楽曲としても、橋幸夫の音楽史において重要な位置を占めていると言えるでしょう。

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