あ・い・う・え・お・ん・ど

1977年、日本の音楽シーンに独特の風を吹き込んだ童謡が誕生しました。その名も『あいうえおんど』。作詞は結城忍、作曲はサトウ進一という布陣で、当時小学5年生だった宮本浩次（現エレファントカシマシ）が歌声を披露しています。

この曲は、子供たちの何気ない日常を鮮やかに切り取った作品です。歌詞には、勉強しているふりをして漫画を描いたり、学習塾に通ったり、野球に熱中する姿が描かれています。特に印象的なのは、王貞治選手にあこがれながら三振してしまうというエピソード。子供たちの等身大の姿が、ユーモラスに、そしてリアルに表現されています。

1番の歌詞では、机に向かいながらこっそり漫画を描いている様子が歌われます。「あいうえオムレツ、タマゴマン、かきくけコロッケ、ジャガイモン…」という、遊び心のある歌詞が耳に残ります。2番では学習塾での様子が描かれ、塾の厳しさや、子供たちの葛藤が感じられます。3番では野球に打ち込む姿が描かれ、王貞治選手を目標にしながらも、三振してしまうという現実も描かれることで、子供たちのひたむきさと、現実の厳しさの両方が表現されています。そして4番では、「ちびっ子仲間は及びじゃない」という、子供ならではの自信と、仲間意識が感じられる歌詞で締めくくられます。

楽曲全体を彩る軽快なメロディーと、宮本浩次少年の伸びやかな歌声は、聴く者の心に懐かしさと温かさをもたらします。また、曲の構成も巧みで、子供たちの日常を様々な角度から捉え、飽きさせない工夫が凝らされています。

レコードのB面には、藤本房子による『ガチャガチャバンド』が収録されていました。発売元はクラウンミュージックでしたが、需要がなかったため、すぐに廃盤となってしまいました。クラウンミュージックの担当者によれば、もしCD化を検討していたとしても、1980年代には実現していたであろうとのことです。

現在、ロック歌手として圧倒的な存在感を放つ宮本浩次氏も、この童謡についてはほとんど語ることはありません。この事実が、この曲の希少価値を高め、より一層魅力的な楽曲へと昇華させていると言えるでしょう。

『あいうえおんど』は、単なる子供向けの童謡として片付けるにはあまりにも奥が深い作品です。1970年代後半の小学生男子の生活、当時の社会情勢、そして宮本浩次の音楽人生の始まり…様々な要素が複雑に絡み合い、独特の世界観を作り上げています。この曲は、時代を超えて、多くの人々の心に響き続ける、忘れがたい名曲と言えるでしょう。当時を知る世代には懐かしさを、知らない世代には新鮮な驚きと感動を与えてくれる、そんな魅力に溢れた楽曲です。

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