いつくしま (巡視船)

海上保安庁の新たな旗艦「いつくしま」：訓練と警備の融合

「いつくしま」(JCG Itsukushima, PL-23)は、海上保安庁第六管区に所属する巡視船です。その特徴は、単なる巡視船の役割にとどまらず、海上保安大学校の練習船も兼務している点にあります。この多様な役割を担うため、同庁のPL型巡視船として、また練習船としても過去最大規模を誇り、総事業費は約120億円に上ります。

誕生の背景：人材育成への対応

これまで、呉海上保安部に所属する「こじま」が巡視業務と練習船業務の両方を担ってきました。しかし、近年、海上保安庁は人材確保と育成強化のため、海上保安大学校の学生数を増員。さらに、一般大学卒業者を対象とした初任科課程も新設されました。「こじま」の訓練能力では学生増加に対応しきれず、より効率的な教育訓練環境の整備が求められていました。このニーズに応えるべく、「いつくしま」の建造計画が立案されたのです。

設計：進化した訓練環境

「いつくしま」の設計は、既存の「みやこ型」巡視船を参考に、大型化が図られています。「こじま」と比較すると、乗船可能な実習生は約60名から約100名へと大幅に増加しました。

効率的な実習を可能にするため、船内には様々な工夫が凝らされています。例えば、海保初の2段船橋を採用。上段は通常の航海船橋、下段は実習船橋として使用され、操船権の切り替えも可能です。これにより、乗組員による実践的な操船訓練と、学生による同時訓練が実現します。また、下段船橋では、船内火災などの緊急事態への対応訓練も実施可能です。

後部上構には、大規模な授業や訓練に対応できる学生教室や多目的室が設置されています。この多目的室はレセプションスペースとしても活用され、国際交流にも役立ちます。ただし、ヘリコプターの離発着は考慮されていません。安全性を確保するため、全天候型救命艇2隻、警備救難艇4隻を搭載しています。

船歴と今後の展望

「いつくしま」は2023年7月4日に三菱重工下関造船所江浦工場で進水、2024年7月1日に海上保安庁に引き渡されました。同年7月10日には初めて海上保安大学校に入港し、8月26日には就役披露式が行われました。

同年8月25日には、海上保安大学校本科生、初任科学生を乗せ、初めての乗船実習に出港。その後、小樽港で一般公開を実施するなど、各地で活動しています。

「いつくしま」は、海上保安業務と人材育成という、二つの重要な役割を担う船です。その活動は、日本の海上安全と保安体制の強化に大きく貢献するものと期待されています。今後、より高度な訓練環境を提供することで、日本の海洋における安全保障に貢献していくでしょう。

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