いなか、の、じけん

いなか、の、じけん

夢野久作による『いなか、の、じけん』は、短編小説の形式で構成される作品集です。この本には、作家の故郷である九州地方の農村や漁村で実際に起こった数々の出来事が描かれています。そのため、物語は単なるフィクションにとどまらず、リアリティを伴った深い洞察を提供しています。総計20篇からなる本書は、夢野久作の独特の視点と感性が色濃く反映されており、文学と地域社会の結びつきを感じさせるものとなっています。

本書に収録されている短編は、『探偵趣味』という機関誌に15篇が初めて掲載され、その後雑誌『猟奇』に5篇が続いて収められています。このように、作品が発表された背景にある文化や社会的な文脈もまた、作品を理解する上で重要な要素となるでしょう。

各話のあらすじ

大きな手がかり（「ぬす人の朝寝」改題）

村長の米蔵から白米が盗まれる事件が発生します。現場には荷車の車輪の跡が残されており、それをたどっていくと意外な真相が明らかになります。

按摩の昼火事

ある日、盲目の按摩が後家さんの家に火を放ちました。しかし、逃げ道がわからず慌てふためく様子が描かれています。偶然にも早期に火は消し止められ、按摩は巡査にその動機を問いただされます。

夫婦の虚空蔵

「虚空蔵さまの生まれ変わり」と呼ばれる夫婦がいます。この夫婦がなぜそのような称号を得たのか、その背景を探る物語が展開します。

汽車の実力実験

3人の若者が線路に置き石をし、事件は警察に発覚します。彼らの言い訳や思いもよらない展開が物語を盛り上げています。

スットントン

三味線の上手な盲目の娘が、雄弁な馬方によって迎えられますが、会場に到着した際には肝心の娘が消えてしまいます。この騒動の背後に隠された真相とは？

そして、他にも不動明王信仰が絡む「花嫁の舌食い」や、意外な展開を見せる「郵便局」、そして多様な視点から描かれる人間関係など、20篇それぞれがユニークで興味を引くものとなっています。

本書の魅力は、単なる娯楽作品にとどまらず、作家の思考や地域社会の文化を理解する手がかりを与えてくれる点にあります。短編ごとに異なるテーマやキャラクターが登場し、読む者を飽きさせない仕掛けが施されています。読者は、夢野久作の描く不思議な世界に引き込まれ、日常の中に潜む謎や驚きを見つけることができるでしょう。

このように、『いなか、の、じけん』は、ただの短編集を超えて、夢野久作自身の世界観や社会観が楽しめる作品に仕上がっています。

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