いれずみの男 (1969年の映画)

いれずみの男

1969年に公開されたアメリカ合衆国のSF映画。著名なSF作家レイ・ブラッドベリが1951年に発表した短編集『刺青の男』（The Illustrated Man）を原作としており、そのうちの3つの短編、『草原』（The Veldt）、『長雨』（The Long Rain）、『今夜限り世界が』（The Last Night of the World）が映像化されている。監督はジャック・スマイト、主演はロッド・スタイガーが務めた。

物語は、近未来のアメリカを舞台に、全身にびっしりと奇妙ないれずみを彫り込んだ男カール（ロッド・スタイガー）が、ある旅人に自身のいれずみにまつわる禁断の物語を語り聞かせるという独特の構成で進行する。カールが遭遇した魔法を操る謎めいた女性フェリシアとの出会いから始まる彼の過去が語られる中で、いれずみの一つ一つが、それぞれ独立した短編世界の入口となる。描かれる世界は多岐にわたり、『草原』では高度な仮想現実システムが招く悲劇、『長雨』では絶えず雨が降り続く異星での過酷なサバイバル、そして『今夜限り世界が』では世界の終末を予感させる一夜の出来事が綴られる。

製作に際して、脚本はハワード・B・クライツェックが担当したが、原作のブラッドベリ自身は映画化への関与はなかった。ブラッドベリは1967年に映画化の権利を売却している。監督のジャック・スマイトは、原作短編集に収められた多数の物語の中から上記の3編を選び出し、残りの要素はロッド・スタイガー演じるカールのいれずみとして、本編を繋ぐプロローグとエピローグの語りに活用した。当時の人気俳優であったロッド・スタイガーの起用も話題となった。なお、本作の米国内における映倫指定はMレートであった。

公開当時の評価は芳しいものではなく、経済的にも失敗に終わったとされている。特に、タイム誌は監督のジャック・スマイトの演出手腕や趣味、そしてロッド・スタイガーを短編パートにも出演させたキャスティングの失敗を厳しく批判した。ニューヨーク・タイムズ紙のヴィンセント・キャンバイは、脚本の焦点のなさや不明瞭さを指摘しつつも、作品に内在する「気味の悪い美しさ」には言及したが、監督が脚本に縛られ、全体が未発達で壮大さを装うだけの出来栄えであると評した。シカゴ・サンタイムズ紙のロジャー・エバートもまた、監督の混乱と物語の方向性の不明瞭さを指摘。失敗の主因は演技やキャラクターにあるのではなく、観客の期待への配慮不足、特に3つの短編それぞれとそれらを統合する論理の不十分さにあると分析した。その後の時代（2006年のDVD解説など）では、1960年代後半の社会が抱えていた反骨精神や終末的な未来像を反映した作品として再評価される側面もある。

2007年にはザック・スナイダー監督によるリメイク計画が発表されたが、2015年時点では実現には至っていない。

スタッフ

監督: ジャック・スマイト
脚本: ハワード・B・クライツェック
音楽: ジェリー・ゴールドスミス

キャスト

カール: ロッド・スタイガー
フェリシア: クレア・ブルーム
ウィリー: ロバート・ドライヴァス
ピッカード: ドン・ダビンズ
サイモンズ: ジェイソン・エヴァーズ
ジョン: ティム・ウェルドン
アンナ: クリスティーヌ・マチェット

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