うお座・くじら座超銀河団Complex

宇宙には銀河が集まって作る巨大な構造が存在します。「うお座・くじら座超銀河団Complex」（Pisces-Cetus Supercluster Complex）もそうした構造の一つであり、複数の超銀河団やそれらを繋ぐ銀河フィラメントが複雑に絡み合って形成された、非常に広大な複合体です。この構造には、私たちの太陽系が属する天の川銀河（銀河系）を含む局部銀河群が所属するおとめ座超銀河団も含まれています。

この巨大な複合体は、1987年にハワイ大学の天文学者ブレント・タリー博士によってその存在が明らかにされました。

構造と規模

うお座・くじら座超銀河団Complexは、驚くべき規模を持っています。その長さはおよそ10億光年、幅は約1.5億光年と推定されています。また、その総質量は、太陽の約100京（10^18）倍にも達すると計算されています。

発見された当時、このうお座・くじら座超銀河団Complexは、宇宙で当時知られていた大規模構造の中でも最大級の一つとして天文学界で注目を集めました。しかし、その後の観測技術の進歩や探査範囲の拡大により、さらに大規模な構造が次々と発見されています。例えば、長さ13.7億光年のスローン・グレートウォール、さらに広大な40億光年のU1.27、そして現在知られている中でも最大級とされる100億光年の長さに及ぶヘルクレス座・かんむり座グレートウォールなどが、その後に発見された代表的な巨大構造です。これらの発見によって、うお座・くじら座超銀河団Complexは「最大級」ではなくなりましたが、それでもなお、宇宙における極めて巨大な構造体であることに変わりはありません。

構成要素

うお座・くじら座超銀河団Complexは、全体として約60個の銀河団が集まって構成されていると考えられています。発見者であるタリー博士は、この広大な複合体を理解するために、五つの主要な領域（パーツ）に分類することを提案しています。

1. うお座・くじら座超銀河団: 複合体の名称にもなっている主要な部分です。
2. ペルセウス座・ペガスス座鎖: これには、ペルセウス座・うお座超銀河団などが含まれます。
3. ペルセウス座・うお座鎖: 上記とは異なる、もう一つの鎖状の構造です。
4. ちょうこくしつ座領域: ちょうこくしつ座超銀河団や、より遠方のヘルクレス座超銀河団などがこの領域に含まれます。
5. おとめ座・うみへび座・ケンタウルス座超銀河団: 私たちのおとめ座超銀河団と、それに続くうみへび座・ケンタウルス座超銀河団を含む広範な領域です。

私たちの太陽系を含む天の川銀河は、このリストの五つ目にある「おとめ座超銀河団」の一部である局部銀河群に位置しています。おとめ座超銀河団自体も多数の銀河が集まった巨大な構造ですが、その質量は約1000兆（10^15）太陽質量と推定されており、これはうお座・くじら座超銀河団Complex全体の総質量のおよそ0.1パーセント程度に過ぎません。この数値からも、複合体全体の規模がいかに巨大であるかが分かります。

このように、うお座・くじら座超銀河団Complexは、銀河や銀河団が宇宙空間に描く壮大なパターンである大規模構造の一例であり、宇宙の成り立ちや進化を理解する上で重要な研究対象となっています。その存在は、宇宙が均質ではなく、巨大な泡のような構造（ボイド）と、それに囲まれた銀河や銀河団が集まるフィラメントや壁のような構造で満たされていることを示唆しています。宇宙論における構造形成の理論は、このような観測された構造を説明しようと試みています。

銀河が集まって作るこれらの巨大構造は、宇宙の歴史を通じて物質がどのように分布し、進化してきたのかを探るための鍵となります。うお座・くじら座超銀河団Complexの研究もまた、この広大な宇宙のパズルを解き明かす一助となっています。

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