うつぶし

小説『うつぶし』について

隼見果奈による小説『うつぶし』は、2012年に筑摩書房から刊行された作品です。この本は、同年に受賞した第28回太宰治賞を契機に世に出ました。装幀は緒方修一が手がけ、装画はコンドウカヨが描いています。読者の心を惹きつけるビジュアルと共に、独特のストーリー展開が魅力的です。

あらすじ

本作は、雛子という25歳の女性を中心に物語が進行します。雛子の父はオグシチャボという珍しいニワトリを専門に育てる養鶏場「ミドリ養鶏場」を経営しており、彼女はそこに育ちました。高校卒業後、雛子は養鶏場で働き始めます。ある日、中年男性の山岸が訪れ、養鶏場でオグシチャボの養鶏を学びたいと申し出ます。山岸は、下腹部に膨らみを抱え、「子どもが産まれる」と語り、見習いとして雛子と共に働くことになります。

この物語では、雛子と山岸の相互作用を通して、彼女の内面の葛藤や人間関係の難しさが描かれています。雛子は、山岸との関係を通して、他者との接触に対する恐れを抱えつつ、自身の感情の揺れ動きを体験します。

作品の評価

小説家の小川洋子は、この作品の主人公である雛子の他者との関係の脆さと、鶏との特異な関係性を高く評価しています。「鶏の凶暴さに影響され、自らの暴力感と向き合う」という独自の設定は新鮮で印象的です。また、詩人の荒川洋治は、文学的な密度と完成度の高さに驚かされ、養鶏場の日常をリアルに描いた点を称賛しています。

『うつぶし』の魅力は、登場人物たちの生き様や感情に対する緻密な描写にあります。

『海とも夜とも違う青』について

同じく隼見果奈の書き下ろし短編『海とも夜とも違う青』も本書に収録されています。この作品は、女子大学生の早耶子が中心となる物語です。彼女は教職課程を履修している最中、同じく大学生の桐野に勧められ、彼女の息子である不登校児童の詩朗の家庭教師を務めることになります。

詩朗の家には、独特な青い身体を持つ「ツヴェルギン」という名前の獣が飼われており、奇妙な日常が展開されます。早耶子と詩朗との関係を通じて、教育や育成の難しさ、孤独感を感じさせるエピソードが描かれています。

この短編もまた、隼見果奈らしい深い洞察に満ちており、登場人物のそれぞれが抱える悩みや繋がりの重みを感じさせます。

まとめ

『うつぶし』と『海とも夜とも違う青』、この2つの作品は、いずれも人間関係の複雑さや個の内面的な葛藤を巧みに描写しています。隼見果奈の言葉は、ただの物語を超えて、読者に深い思索を促す力を持っているといえるでしょう。

もう一度検索