おつかいありさん

童謡「おつかいありさん」

「おつかいありさん」は、作詞を関根榮一、作曲を團伊玖磨が手がけた日本の童謡で、1950年にNHKラジオ番組『幼児の時間』で発表されました。この曲は、当時の童謡とは異なるアプローチで制作され、幼児の生活に根ざした内容が特徴です。

誕生の背景

1945年、第二次世界大戦の影響で中断していたNHKの幼児向け番組『幼児の時間』が再開されました。1949年には、新しい試みとして「うたのおばさん」というコーナーが設けられました。当時、童謡はレコードを通じて広まることが多く、商業的な側面が重視されがちで、幼児の生活実態とはかけ離れた内容のものも少なくありませんでした。また、歌い手は「童謡歌手」と呼ばれる少女たちが主体で、愛らしい振り付けで大人の目を引くことが求められていました。

こうした状況を改善するため、NHKは幼児番組を再構築し、作曲家には若いながらも本格的な音楽教育を受けた人材を、歌い手には歌唱経験豊富な「おばさん」を起用しました。これにより、従来の童謡とは異なる、真に幼児のための歌を生み出すことを目指しました。「おつかいありさん」も、このような流れの中で誕生した楽曲の一つです。

作詞家：関根榮一

作詞を担当した関根榮一は、当時私鉄の駅員として勤務しており、詩を趣味としていましたが、童謡には特別な関心を持っていませんでした。しかし、戦時中に同じ職場で働いていた作曲家と偶然再会したことがきっかけで、NHKに紹介され、幼児向けの歌の作詞を依頼されることになりました。

関根は、童謡の作詞にあたり、北原白秋のような詩を思い浮かべましたが、幼児には難解であると考え、幼児が日常で目にするものをそのまま描くことにしました。その結果、擬態語を多用し、幼児にも親しみやすい、シンプルながらも印象的な歌詞が完成しました。

作曲家：團伊玖磨

作曲を担当した團伊玖磨は、1948年からNHKの専属作曲家として活動していました。團は当時のレコード童謡を嫌っており、若い世代が新しい童謡を創造すべきだと考えていました。自ら幼児番組を担当することを志望し、アリを観察した幼少期の経験から、関根の歌詞に共感し、作曲に取り組みました。促音の多い歌詞にも悩むことなく、スムーズに作曲を完成させました。

発表と反響

1950年6月、「おつかいありさん」は番組で発表され、その後も長く歌い継がれるようになりました。1950年代には、團は「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」など、動物を題材にした童謡を数多く作曲しました。関根も「おつかいありさん」をきっかけに、子供向けの作品を手がけるようになり、「かえるのうた」では再び團と共作しました。

1975年には、関根は童謡集を『おつかいありさん』というタイトルで出版し、日本童謡賞・赤い鳥文学賞特別賞を受賞しました。2014年には、保育士実技試験の課題曲にも採用されています。

また、「Little Ant Goes Shopping」という英訳詞も存在し、海外でも親しまれています。

まとめ

「おつかいありさん」は、従来の童謡のあり方を見直し、幼児の視点に立った歌詞と、親しみやすいメロディーが特徴の童謡です。作者たちの熱意と才能が結実したこの曲は、時代を超えて多くの人々に愛され続けています。

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