おとりよせ王子 飯田好実

『おとりよせ王子 飯田好実』は、漫画家・高瀬志帆氏によって描かれた日本の漫画作品です。徳間書店が発行する『月刊コミックゼノン』にて、2011年2月号から2016年7月号まで連載されました。また、そのスピンオフ作品である『飯田くんの休日』は、ウェブコミックサイト『WEBコミックぜにょん』でも発表されています。本作はメディアミックス展開も行われ、2013年にはテレビドラマ化され、多くの視聴者に届けられました。

ストーリー概要

物語の主人公は、システムエンジニアとして働く26歳の会社員、飯田好実です。彼は普段は地味で目立たない存在ですが、その最大の喜びは、自ら選び抜き、吟味した全国各地の通信販売食品、すなわち「お取り寄せ」グルメを味わうことです。特に、宅配便で商品を受け取ることができる残業なしの水曜日を毎週心待ちにしており、その日が来ると一目散に帰宅します。自宅アパートに到着すると、彼はその「お取り寄せ」した逸品を、ツイッター（現X）でその様子を実況しながら、一人静かに堪能します。この、誰にも邪魔されない自分だけの時間を、彼は至福のひとときとして深く愛しています。作品では、社会人として直面する様々な人間関係の煩わしさや葛藤を乗り越えながら、自分にとって大切な時間と空間を確保し、心から愛でるように「お取り寄せ」グルメを楽しむ飯田好実の日常が、丁寧に描かれています。彼がお取り寄せ品を愛でる様子は、読者にも強い食欲を刺激する魅力となっています。

主な登場人物

飯田好実（いいだ よしみ）: 本作の主人公。26歳、システムエンジニア。極度のギーク気質で、自身の関心事以外には無関心。神経質で頑固な一面があり、些細なことにも強いこだわりを持つ。全国から美食を取り寄せて味わうのが趣味。水曜日のノー残業デーは、お取り寄せ品を受け取るために最速で帰宅するため、同僚からは「付き合いが悪い」と思われている。ツイッターでのお取り寄せ実況はフォロワーから「王子」と呼ばれ人気を博すが、本人は無自覚。自己流アレンジ「オレオリ」も披露する。特撮ファンでもあり、フィギュアやバンドTシャツ集めも趣味。母親の影響で食にこだわるようになった。人付き合いは苦手だが、食の話題で気が合う相手には心を開く。ドラマ版では中日ドラゴンズファンという設定も追加されている。
飯田愛実（いいだ まなみ）: 好実の3歳上の姉（29歳）。弟同様の美食家だが、大雑把な性格で部屋は散らかっている。自由が丘在住の独身。アポなしで弟の部屋に来てお取り寄せ品を勝手につまみ食いし、好実を怒らせる。酒好きで、弟より人間関係には気を遣うタイプ。美人だが男運に恵まれない。
主任（久保田健司）: 飯田の上司（40歳）。既婚だが家庭は冷え込み気味。部下の面倒見は良いが、セクハラまがいの言動が多い。かつては愛人もいた。ドラマ版では佐賀県出身。
朝倉麻世（あさくら まよ）: 飯田の同僚。職場の紅一点。自身の可愛さを利用する「あざとい」タイプだが、好実には通用しない。料理は苦手だがお菓子作りはする。
遠藤: 飯田の会社の経理担当。派遣社員の未亡人。中学2年生の息子を持つ母親で、好実を息子のように気遣う。好実とは食の話題で気が合い、弁当をシェアすることも。
松木雄大（まつき ゆうだい）: 飯田の大学時代からの友人。佐賀出身。特撮ファンで体育会系。空気は読めないが誰とでも偏見なく付き合える。母親の介護のため帰郷後も飯田と交流があり、共に取り寄せ品を味わう数少ない友人。
盛田（もりた）: 飯田の後輩。中途採用。イケメンで彼女持ちの「リア充」。飯田のTwitterアカウント「おとりよせ王子」を知っており、対抗心を抱くことも。我儘な彼女に振り回される苦労も描かれる。朝倉を冷めた目で見ている。
磯辺マキ（いそべ マキ）: 中途採用の女性社員。アニメキャラのような見た目とキツイ言動。「オタク型KY」で、人の気持ちを考えず持論を展開し、教育係の朝倉をストレスさせる。食事に無頓着。
飯田一実（いいだ かずみ）: 好実・愛実の父。山梨在住。頑固でこだわりが強く、好実と衝突しやすい。和食党で洋食嫌い。「男子厨房に入らず」を持論とする亭主関白。
飯田良江（いいだ よしえ）: 好実の父の再婚相手。好実たちとは関係良好。「気配りの人」。夫に合わせて和食中心だが自身は洋食好き。夫と好実を「似た者親子」と見ている。
飯田実子（いいだ じつこ）: 好実・愛実の生母。故人。
好実の祖父: 山梨在住。70代ながらアイドルの追っかけで、好実宅を訪問することも。
隣人: 好実のアパートの隣人。サングラスをかけた強面だがノリが良い。娘「まりん」がいる。
ドラマオリジナルキャラクター: 飴宮春菜（隣人、京都弁で話す）、木下典人（宅配員、好実のフォロワーだが気づいていない）など。

評価

本作は、そのユニークな切り口と描写で高い評価を得ています。特に、料理研究家である南信長は、緻密でリアルな食品の描写や、それらを味わう主人公の心底幸せそうな表情が、いわゆる「飯テロ」と呼ばれるような強力な誘惑力を生み出している点を高く評価しています。さらに、プロのグルメリポーターにも匹敵する主人公の豊かなリアクション、職場の同僚や家族など周囲の人々との関わりの中で描かれる人間的な成長、そして現代のインターネット文化を取り入れ、ツイッター（現X）を通じて食の楽しみが拡散される様子を効果的に描いている点なども、肯定的な評価を受けています。

書誌情報・メディア展開

『おとりよせ王子 飯田好実』は、徳間書店よりゼノンコミックスとして全7巻が刊行されています。加えて、お取り寄せ情報をまとめたぴあMOOK『おとりよせ王子飯田好実の お取り寄せ★ノート』や、コアミックスからの特別編集版、新装版（全4巻）も出版されました。

また、2013年にはテレビドラマ化が実現しました。名古屋テレビ放送（メ～テレ）などで同年4月から7月にかけて放送され、全10話で構成されました。主演を近江陽一郎が務め、青山倫子、塚地武雅、山下リオといったキャストが出演しました。制作はウィルコが担当し、監督は筧昌也らが務めました。主題歌はノックチャックの「君の願い 君の思い」。

この作品は、単なるグルメ漫画に留まらず、現代社会における個人の趣味の追求や人間関係のあり方を描いた作品として、読者からの支持を得ました。

もう一度検索