おばけ煙突 (漫画)

『おばけ煙突』についての考察

つげ義春が1958年に発表した短編『おばけ煙突』は、青年漫画界に大きな影響を与えた作品の一つです。この短編は、彼が貸本漫画作家として活動していた初期に書かれ、若木書房の『迷路1』に掲載されました。この作品の特徴は、独特のペシミズムと、全編を貫く雨の描写にあります。物語が展開される舞台は東京のはずれに位置する、見る位置によって見え方が変わる4本の不思議な煙突です。この構図が、物語に独特の不気味さを加えています。

背景と創作の過程

『おばけ煙突』が創作された時期は、貸本漫画誌がいくつか創刊されていた時代でした。特に『影』や『街』などの雑誌が人気を集めており、つげ義春もこの流れに影響を受けていました。『影』はコマ割りやストーリー展開において非常に工夫された作品が多く、つげはそのスタイルから刺激を受けつつ、自身の特性を生かした作品を模索していたのです。

当時、東京で活躍していた漫画家の白土三平も、つげ義春の作品を高く評価していました。彼の評価がつげの後のキャリアに大きく寄与し、つげはその後、『ガロ』で絶頂期を迎えることとなります。しかし、最初の頃は自身が描く作品と、周囲の作品との違いに悩み続けていたと言います。

暗い生活の影響

つげ義春は、自身の生活環境が作品に与える影響についても言及しています。彼が暮らしていたアパートは、さまざまな社会的背景を持つ人々が混在し、特にペテン師や売春婦のような底辺の生活が色濃く影響していました。このような環境はつげの作品に暗い影を落とし、独特のペシミズムを生み出す要因となっていたのです。

たとえば、つげはそのアパートで麻雀や花札を覚えたり、周囲の人々の生き様を観察する中で、社会の底辺に生きる人々の苦悩を理解し、それが作品に反映されるようになりました。彼はこれらの経験を通して、自身の作風に変化が訪れたことを強く意識していたと語っています。

物語の概要

『おばけ煙突』の物語は、4本の煙突を巡る恐ろしい伝説から始まります。その中で、特に4番目の煙突には「たたりの煙突」として恐れられ、多くの職人がその恐怖のために命を落としています。物語の主人公は、貧困にあえぐ職人で、息子の医療費を稼ぐために懸賞金のある4番目の煙突に挑戦します。

連日の雨で仕事がなく、心身ともに疲弊した主人公は、強風と豪雨という厳しい環境下で煙突の掃除作業に挑みます。しかし、彼は途中で足を滑らせ、10人目の犠牲者となってしまいます。家では、無知な妻と子供が無事の帰りを待っています。このドラマティックな状況は、つげの描く深い人間ドラマや、人生の儚さを表現しています。

結論

『おばけ煙突』は、つげ義春の特異な視点から描かれた作品であり、ペシミズムと社会の底辺に生きる人々の苦悩を巧みに表現しています。雨に覆われた東京の一角で繰り広げられるこの物語は、ただのスリラー作品を超え、人生や死について深く考えさせられる作品となっています。

もう一度検索