かしゃもち

かしゃもち

かしゃもち（カシャ餅、かしゃ餅とも表記）は、日本の南西諸島に位置する鹿児島県の奄美群島に古くから伝わる伝統的な郷土料理です。これはヨモギを餅に練り込んだ餅菓子の一種であり、地元では「ふちもち」という名でも親しまれています。

特徴と製法

この餅菓子の主要な材料は、上質な餅粉に加えて、香り高いヨモギの葉です。餅粉に細かく刻んだヨモギの葉をたっぷりと混ぜ合わせ、しっかりと練り上げてから蒸し上げることで、鮮やかな緑色と爽やかな香りが特徴の餅が出来上がります。

かしゃもちを特に特徴づけているのは、その包み方です。出来上がった餅は、一つずつをクマタケラン（奄美地方では「かしゃ」と呼ばれます）や月桃といった植物の大きな葉で丁寧に包み込まれます。これらの葉はショウガ科の植物であり、独特の良い香りを持ちます。葉で包むことで、餅にその香りが移り、さらに乾燥を防ぎ、美味しさを保つ役割も果たします。かしゃもちを食べる際には、この包まれた葉を開いて中の餅を取り出します。

別名である「ふちもち」の「ふち」は、奄美の方言でヨモギを指す言葉です。ヨモギを主材料とする餅であることから、この名が付けられました。

伝統行事の中での役割

かしゃもちは、単なる日常の菓子としてだけでなく、奄美の文化や伝統行事とも深く結びついています。特に、家族の健康と安全を願う伝統的な行事には欠かせません。

旧暦の3月3日に行われる「浜下り（はまうり）」は、その代表例です。この日は、女性が海岸で身を清め、家族の無病息災を祈願する日とされています。家族一同が集まって祝膳を囲む際、その食卓にかしゃもちが供されます。かつては、各家庭で手作りされるのが一般的でしたが、時代の流れとともに家庭で作る機会は減少し、現在は店頭で購入することが増えています。

また、奄美大島の大和村湯湾釜（ゆわんがま）集落では、旧暦10月16日に行われる伝統行事「ムチモレ踊り」でも重要な役割を担います。この行事では、顔を隠した人々が集落内の家々を訪れ、防火や無病息災を願う踊りを披露します。訪問を受けた家では、感謝の気持ちを込めて客人をもてなしますが、その際のおもてなしの品として、金銭や飲食料品と共に、かしゃもちが渡されます。

「ムチモレ踊り」におけるかしゃもちは、特別な象徴的意味を持つとされています。それは、かつて火事を消し止める際に用いられた田んぼの泥を意味すると伝えられています。田んぼの泥が火災という災いを鎮めるように、かしゃもちを食べることで災難を払い、家や人々の安全を願う祈りが込められているのです。

このように、かしゃもちは奄美群島の自然の恵みを取り入れ、人々の暮らしや伝統、そして願いと共に受け継がれてきた、文化的にも意義深い郷土料理と言えます。その独特な風味と包み葉の香りは、奄美の風土と歴史を感じさせてくれます。

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