からすのパンやさん

からすのパンやさん

『からすのパンやさん』は、日本の絵本作家であるかこさとし（加古里子）氏が文と絵を手がけた、世代を超えて読み継がれる名作絵本です。この作品は1973年（昭和48年）に偕成社から刊行された絵本シリーズ『かこさとし おはなしのほん』全10巻のうちの第7巻として世に出ました。

物語の舞台は「いずみがもり」にある、カラスたちが暮らす賑やかな町。そこに一軒のパン屋さんがありました。パン屋を営むカラスの夫婦は、ある日、待望の4羽の可愛らしい赤ちゃんを授かります。チョコくん、リンゴさん、レモンさん、オモチくんと名付けられた子どもたちが成長していくにつれて、夫婦は彼らの自由な発想に耳を傾けながら、これまでの丸いパンや細長いパンとは一味違う、全く新しい形のパンを作り始めます。

子どもたちの豊かな想像力から生まれたパンは、野菜や果物、乗り物、動物、おもちゃなど、様々なものをかたどったユニークなものばかり。これらの個性あふれるパンを店頭に並べると、町のカラスたちはもちろん、遠くの森からもお客さんが集まり、パン屋さんはかつてないほどの大繁盛となります。一家が協力してパンを作り、お店を切り盛りする様子が生き生きと描かれています。

この絵本の最大の魅力の一つは、その絵による表現力にあります。いずみがもりに集まる数え切れないほどのカラスたちが、一羽一羽表情豊かに描かれており、その活気あふれる様子が伝わってきます。特に、カラス一家が作った色とりどりの、様々な形をしたパンが、見開きページいっぱいにずらりと並べられている場面は、子どもたちから絶大な人気を誇っています。このページは、読者が「こんなパンがある！」と指をさしながら楽しめる、視覚的な楽しさに満ちています。

作品の人気は根強く、2018年までに累計発行部数は240万部を超え、かこさとし氏の数ある作品の中でも特に知られた代表作の一つとなっています。物語に登場する愛らしいパンを実際に家庭で作ってみたいという読者の声に応え、作中のパンのレシピを再現した書籍も出版されるなど、絵本の枠を超えた広がりを見せています。

『からすのパンやさん』のその後を描いた続編シリーズも制作されています。2013年には、成長した4羽の子どもたち、チョコくん、リンゴさん、レモンさん、オモチくんをそれぞれ主人公にした4冊の絵本が刊行されました。

『からすのおかしやさん』（かこさとし おはなしのほん11）：長男のチョコくんが、両親からお店を任された経験を機にお菓子屋さんを始める物語です。
『からすのやおやさん』（かこさとし おはなしのほん12）：長女のリンゴさんが、余ってしまった野菜を工夫して売り出したことから八百屋さんを開くことになります。
『からすのてんぷらやさん』（かこさとし おはなしのほん13）：次女のレモンさんが、火事に見舞われた天ぷら屋さんの手伝いを通じて活躍します。
『からすのそばやさん』（かこさとし おはなしのほん14）：次男のオモチくんが、隣村の蕎麦屋さんでの修行を経て、自分のお店を持つまでが描かれます。

絵本以外にも、作品を題材にした商品が生まれています。「からすのパンやさん トランプ」は、物語の世界観を取り入れたトランプで、スペード、ハート、ダイヤ、クラブといった通常のシンボルとは異なる、独自の絵柄が採用されている点も特徴です。

かこさとし氏の故郷である福井県越前市では、市民バスに『からすのパンやさん』のラッピングが施されるなど、地域に根ざした取り組みも見られます。このように、『からすのパンやさん』は、一冊の絵本としてだけでなく、様々な形で多くの人々に親しまれ続けています。

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