けものみち (松本清張)

長編小説『けものみち』

松本清張による『けものみち』は、戦後の日本社会における権力構造を深く掘り下げた社会派サスペンスの名作です。1962年から1963年にかけて『週刊新潮』に連載され、1964年に新潮社から単行本として刊行されました。さらに、後には電子書籍としてもリリースされています。この作品は、同年に映画化され、またテレビドラマとしても数回にわたって映像化されています。

あらすじ

物語の中心には成沢民子がいます。彼女は病に倒れた夫、成沢寛次を支えるために、割烹旅館「芳仙閣」で仲居として働いています。しかし、寛次は民子が帰るたびに猜疑心を深め、精神的に追い詰めていきます。

ある日、ホテルの支配人である小滝章二郎が芳仙閣を訪れます。彼は民子に、新しい生活を提案し、彼女を魅了します。その結果、民子は不幸な結婚生活から解放されるために、夫を焼殺するという恐ろしい決断を下します。この事件は、警察と消防によって失火として処理されますが、担当刑事である久恒義夫は、民子の周囲に不審な点があることを感じ、自ら捜査を始めます。

民子は小滝に導かれ、政財界の黒幕鬼頭洪太の愛人となり、新しい生活を築いていきます。鬼頭の影響力を得て、表向きは華やかな生活ですが、裏では不穏な展開が待ち受けています。その中で民子は、狙われる立場に置かれ、彼女の選択がさらなる悲劇を招くことになります。

登場人物

• - 成沢民子 (31歳): 夫を支える立場から脱却し、自由を求める。
• - 小滝章二郎: 魅力的なホテルの支配人。
• - 鬼頭洪太: 権力者の象徴として描かれる。
• - 久恒義夫: 警察の刑事で、真相に迫ろうとする。

作品の背景

この作品の着想は、仲居からの一通の相談の手紙がきっかけだと言われています。そのため、物語にはリアルな人間ドラマが描かれています。また、本作は読者に強く印象を残し、当時の『週刊新潮』の発行部数は120万部に達しました。松本清張は、政財界の裏で暗躍する人々を描き出し、その描写は一世を風靡しました。

映画とテレビドラマ

この作品は、1965年に映画化され、さまざまなキャストによって演じられました。その後、1982年、1991年、2006年と、いくつかのテレビドラマ化も行われたことで、異なる視点からこの物語が再解釈されています。

結論

『けものみち』はサスペンスだけでなく、人間の欲望や裏切り、その後に待ち受ける悲劇を詳細に描いた作品です。松本清張の作品を通じて、戦後日本社会の陰を感じることができる貴重な一冊です。現代においても色褪せることないテーマが詰まっており、多くの読者を惹きつけ続けています。

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