こぐまちゃん

こぐまちゃん

『こぐまちゃん』は、画家であるわかやまけんが絵を手がけ、こぐま社から出版されている一連の絵本シリーズです。主人公のこぐまちゃんと、友達のしろくまちゃんが登場し、子どもたちの身近な出来事を題材にした物語が展開されます。絵柄は、円や楕円、四角といった基本的な形を多用し、シンプルでありながら明確な印象を与え、子どもたちが親しみやすく理解しやすいよう工夫されています。

誕生とコンセプト

このシリーズは、1970年に「日本の子どもたちが初めて手にする絵本」となることを目指して構想されました。企画段階から、絵を手がけたわかやまけんをはじめ、もりひさし、わだよしおみの両氏、そしてこぐま社の代表である佐藤英和氏を含む4名が共同で制作にあたりました。刊行当時、国内にはまだ「赤ちゃん絵本」という明確なジャンルが存在しなかったため、2歳から3歳の子どもたちを主な読者層として想定し、彼らの日常生活に沿った内容が選ばれています。

1994年には、より低年齢の赤ちゃん向けとして、わかやまけん氏が単独で制作した「はじめてのこぐまちゃん」シリーズも刊行されています。

主人公のこぐまちゃんは、ぬいぐるみのくまをヒントに生み出されました。頭は楕円、耳は大小二つの楕円（常に右耳が大きい）で表現されています。目、鼻、口といった顔のパーツは顔の中心に小さく集められており、シンプルな造形でありながら、目の形などで感情が表現されることもあり、単なる記号とは異なる奥行きがあると評されています。

絵の表現と印刷技術

絵本に使用されている色は、黒、青、グレー、黄緑、オレンジ、黄色の計6色で、一般的なCMYK4色によるオフセット印刷とは異なり、リトグラフの技法に倣い、色ごとに版を分けて刷り重ねる方法が用いられています。シリーズのために特別に作られたインクを使用し、初版以来同じ印刷所で丁寧に制作が続けられています。画家が色ごとに刷る箇所を指示した「描き分け原画」が作成されており、例えば『しろくまちゃんのほっとけーき』に登場するホットケーキの焼き色である茶色は、グレーとオレンジのインクを重ねて表現するなど、色の組み合わせによる深みのある表現が特徴です。

ロングセラーとしての変化

1970年の刊行から半世紀以上を経る中で、より良い絵本を目指して内容の一部が改訂されています。特に人気の高い『しろくまちゃんのほっとけーき』にはいくつかの変更点が見られます。

冷蔵庫のデザイン: 刊行当時の家庭で一般的だった上部に取っ手があるタイプの冷蔵庫は、1980年の改訂時に現代的なデザインに変更されました。
ホットケーキの焼き過程: フライパンでホットケーキを焼く場面では、初版では最後に空になったフライパンが描かれていましたが、子どもたちが「ホットケーキが消えてしまった」と感じるという声を受け、完成したホットケーキがお皿に乗った絵に差し替えられました（3刷）。
洗剤の泡: 絵本の最後の場面に描かれていた、洗剤を使って泡のホットケーキを作る場面は、合成洗剤の使用に関する読者の意見や、子どもたちが真似をする可能性を考慮し、実際に試した結果多量の洗剤が必要であることも判明したため、1980年の改訂時に文章と共に内容が変更されています。

広がる「こぐまちゃん」の世界

『こぐまちゃん』シリーズは、国内だけでなく海外でも親しまれています。2000年代以降、中国語、韓国語、ベトナム語といったアジア圏を中心に翻訳版が出版されています。

また、視覚に障害を持つ子どもたちにも絵本を楽しんでもらうための取り組みも行われています。全盲の方が制作されていた手作りの点訳絵本に『しろくまちゃんのほっとけーき』が含まれていたことがきっかけの一つとなり、こぐま社は2002年に「点字つき絵本の出版と普及を考える会」の設立に参加しました。そして2009年には、『しろくまちゃんのほっとけーき』が触って楽しめる「てんじつきさわるえほん」として製品化され、大きな話題となりました。2013年には『こぐまちゃんとどうぶつえん』も同様のさわる絵本となっています。これらの絵本では、樹脂インクを用いて点字だけでなく絵の形も表現し、点訳に加え絵の状況説明を追加するなど、触覚で絵本の世界を体験できるよう丁寧な調整が加えられています。

シリーズ作品（一部）

こぐまちゃんおはよう
こぐまちゃんとどうぶつえん
しろくまちゃんのほっとけーき
* こぐまちゃんのみずあそび

1970年の刊行以来、長きにわたり親しまれ、2021年11月時点で累計発行部数は1000万部を超えています。中でも『しろくまちゃんのほっとけーき』は2018年時点で297万部を発行しており、世代を超えて読み継がれる日本の代表的な赤ちゃん絵本シリーズとして、今も多くの家庭で愛されています。

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