こち亀40周年企画

『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は、秋本治氏によって長期間にわたり描かれた国民的漫画です。その連載40周年を迎え、さらに単行本が記念すべき200巻に達した2016年は、「こち亀イヤー」と銘打たれ、多岐にわたる記念企画が展開されました。2016年8月から11月にかけて、『週刊少年ジャンプ』本誌を中心に、様々なイベントや出版物が企画されました。

この記念すべき年の始まりを告げたのは、作中の舞台である亀有での取り組みでした。2016年8月7日には、主人公である両津勘吉をはじめ、中川圭一、秋本・カトリーヌ・麗子といった人気キャラクター3体を一体にしたカラー銅像の除幕式が執り行われました。これを記念し、8月7日から18日までの期間、亀有の街を巡る「みんなでまわろう！こち亀銅像スタンプラリー」が開催され、多くのファンが参加しました。

出版面では、記念の特別誌が発行されました。2016年8月16日には『週刊少年ジャンプ』の増刊号として『こち亀ジャンプ』が登場。巻頭カラーを飾った描き下ろし新作エピソードは、当時のリオデジャネイロオリンピックに合わせて日暮熟睡男が活躍する内容でした。さらに、岸本斉史氏や矢吹健太朗氏といった他誌の人気漫画家が特別に描き下ろしたこち亀オリジナルエピソードも収録され、ジャンプ作家が選んだ傑作選20話も掲載されるなど、充実した内容で読者を喜ばせました。

また、異業種とのユニークなコラボレーションも実現しました。浅草花やしきとの共同企画「低予算型テーマパーク浅草亀やしき」が2016年8月20日から28日まで開催され、遊園地がこち亀の世界観に彩られました。

そして、この40周年企画における最も大きな出来事の一つが発表されたのが、2016年9月3日に神田明神で行われた『こち亀』連載40周年記念絵巻奉納式でした。この式典後の記者会見において、同年9月17日発売の『週刊少年ジャンプ』2016年42号をもって連載が完結し、同日発売のコミック200巻が最終巻となることが電撃的に発表されました。この突然の発表は、多くの読者に衝撃を与えましたが、同時に40年の歴史に幕を下ろす偉大な瞬間に立ち会うこととなりました。

この連載40周年と200巻刊行を記念した大規模な展覧会も開催されました。「こち亀展こちら中央区日本橋高島屋内派出所」は、東京・日本橋の高島屋を皮切りに、2016年9月14日から26日まで開催されました。この展覧会はその後、全国各地を巡回。大阪、神奈川、福島、愛知、北海道、青森など、2018年初頭まで約一年半にわたり多くの都市で開催され、全国のファンに作品の魅力を伝える機会となりました。会場では、神田明神に奉納された巨大絵巻や歴代の貴重な原画が展示されたほか、最終話のその後を描いた描き下ろしエピローグ「想い出の巻」が会場限定で公開され、大きな話題となりました（このエピローグは後に単行本201巻に収録されています）。

連載40周年と最終話を迎えた『週刊少年ジャンプ』2016年42号は、2016年9月17日に発売されました。この号は表紙と巻頭カラーを飾り、最終話とともに連載第1話「始末書の両さんの巻」がオールカラーで再掲載されました。特筆すべきは、このジャンプ本誌と単行本最終巻である200巻が同じ日に発売されたことです。これは漫画史においても非常に稀な試みでした。ジャンプ本誌と単行本では最終話の結末の描写が一部異なっており、二つのバージョンが存在することも話題となりました。予想をはるかに超える売れ行きとなり、全国で品薄状態が続出。これをうけ、ジャンプ本誌の重版が決定。これは『週刊少年ジャンプ』の創刊以来48年の歴史で初の出来事であり、異例の事態として大きな注目を集めました。この記念号では読者プレゼント企画も実施され、40周年記念グッズが抽選で贈られました。

ジャンプ本誌を挙げた企画としては、「ジャンプに隠れた40コの両さんマユゲを探せ!!」もユニークでした。この企画では、2016年42号に掲載された全ての漫画作品や記事の中に、両津勘吉の象徴であるマユゲが合計40個隠されており、読者はそれを探すという遊び心溢れる取り組みでした。さらに、同誌の44号からは「みんなのこち亀」と題し、週替わりで様々なジャンプ作家がこち亀との特別コラボ漫画を寄稿。堀越耕平氏、麻生周一氏、松井優征氏など、多くの人気作家が両さんやこち亀キャラクターを描き、40周年に花を添えました。

単行本200巻は、通常版と特装版の二種類が同時発売されました。特装版には、350人以上のキャラクター情報や全話リストを網羅した「こち亀超書（スーパーノート）」が同梱され、ファンの間で非常に価値の高いアイテムとなりました。また、この200巻発売を記念して、9月17日から30日まで亀有地区で再びスタンプラリーが開催されました。

出版物としては他にも、2016年9月17日には他作品とのコラボレーション小説アンソロジー『VS.（バーサス）こち亀こちら葛飾区亀有公園前派出所ノベライズアンソロジー』が発売されました。『おそ松さん』や『ガールズ＆パンツァー』といったアニメ作品から、秋田禎信氏、朝井リョウ氏、初野晴氏、東川篤哉氏といった人気作家の小説シリーズまで、幅広いジャンルとの異色のコラボが実現しました。

物理的なプロモーションも大々的に行われました。JR東日本常磐線緩行線の亀有駅では、「こち亀」駅ジャックが敢行されました。2016年9月17日から30日まで、駅構内の床、壁、階段、エスカレーターなどあらゆる場所が、単行本全200巻の表紙や背景デザインで装飾されました。これは亀有駅における駅ジャック広告としては史上初の試みであり、地元駅が作品への敬意と愛情で満たされました。

40周年企画を締めくくる記念本として、2016年11月4日には∞（無限）巻が刊行されました。これは神田明神に奉納された巨大絵巻物のミニチュアと、その制作過程や内容を解説する本がセットになったもので、この年の最後を飾るにふさわしいアイテムとなりました。

さらに、前述したジャンプ42号と『こち亀ジャンプ』の歴史的な完売と品薄を受け、入手できなかったファンからの強い要望に応える形で、2016年12月31日には両誌をセットにした「こち亀爆売れ御礼!! 両さん特別アニバーサリーパック」が発売されました。これは週刊少年ジャンプの重版分を含むもので、その異例の人気ぶりを改めて示す出来事となりました。

出版やイベントのみならず、メディアミックス展開も活発でした。原作最終話の翌日である2016年9月18日には、TVアニメスペシャル『こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE FINAL 両津勘吉最後の日』が放送されました。これは2008年以来8年ぶりのTVアニメ新作であり、原作の完結に合わせて制作されたファン待望の作品でした。過去のアニメ作品からは、ファン投票と関係者が選んだベストエピソード40話を収録した「こちら葛飾区亀有公園前派出所ベストエピソードセレクションDVD」が2016年12月22日に発売されました。ジャケットは描き下ろしイラストが使用されています。また、舞台版も上演され、東京（2016年9月9日〜19日）と大阪（2016年9月23日〜25日）で公演が行われました。

これらの多岐にわたる企画は、40年という日本の漫画史に刻まれた長期連載の偉業を盛大に祝い、多くのファンに感謝を伝えるとともに、連載終了という一つの時代が終わる瞬間を共有する、記憶に残るイベント群となりました。

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