こねこのトムのおはなし

『こねこのトムのおはなし』について

ビアトリクス・ポターの描く愛らしい動物たちが登場する絵本の中でも、特に人気のあるシリーズが『ピーターラビットのおはなし』です。その一冊として1907年に出版された『こねこのトムのおはなし』（原題：The Tale of Tom Kitten）は、おしゃれをした子猫たちが巻き起こす、ほほえましい騒動を描いています。子供たちの無邪気な行動と、それに振り回されるお母さん猫の姿がユーモラスに綴られており、世代を超えて多くの読者に親しまれています。

物語の舞台は、お母さん猫のタビタ・トウィチット夫人の家です。登場する主なキャラクターは、タビタ夫人の三匹の可愛い子猫たち――やんちゃ盛りの男の子トムと、二人の女の子ミトンとモペットです。そして、物語に意外な展開をもたらすのが、庭を通りかかったパドルダック一家です。

ある晴れた日の午後、タビタ夫人はご近所から友人を招いてティーパーティーを開くことにしました。お客様を迎えるにあたり、タビタ夫人は子供たちに一番の晴れ着を着せることにします。ミトンには真っ白なフリル付きのワンピース、モペットには上品なピンクのボンネットとマフラー、そしてトムには青いボタン付きのスーツを用意しました。しかし、少し成長したトムにとって、このスーツはどうにも窮屈で、パツパツになっています。タビタ夫人は、せっかくの服を汚さないようにと子供たちに厳しく言い聞かせ、庭で遊ぶように言いつけて送り出しました。

庭に出た子猫たちは、初めはおすまし顔で庭を歩いていましたが、すぐにその約束を忘れてしまいます。やんちゃな三匹は、地面の上で転げ回ったり、石垣によじ登ったりと遊び始めました。その結果、白いワンピースには泥のシミが付き、ピンクのボンネットは外れて石垣の下に落ち、トムのスーツはあちこちが破れ、特に窮屈だったボタンは全て弾け飛んでしまいました。そこへ、庭の入り口をのっぺらぼうのパドルダック夫妻とその子供たちが通りかかります。

服をぐちゃぐちゃにしてしまった子猫たちは、石垣から降りる途中で、着ていたものが全て脱げてしまいました。困り果てた三匹は、通りかかったパドルダックたちに服を着るのを手伝ってほしいと頼みます。しかし、パドルダックたちは子猫たちの言葉を聞かず、地面に落ちていた子猫たちの服を次々と拾い上げると、そのまま自分たちが着てしまいました。ミトンのワンピースはパドルダックのメスが、トムのスーツとモペットのボンネットやマフラーはオスが着て、まるで新しい洋服を手に入れたかのように得意げに歩き始めました。

しばらくして、子供たちの様子を見に庭に出てきたタビタ夫人は、裸で立っている三匹の子猫たちの姿を目にして仰天し、そして激怒します。夫人は子供たちをひどく叱りつけ、二階の寝室に行ってベッドの中で静かにしているように命じました。そして、階下でお客様たちが集まる中、タビタ夫人は子供たちははしかにかかってしまったと嘘をついて、パーティーを取り繕いました。しかし、二階の寝室に閉じ込められた子猫たちは、全く静かにしていません。ベッドの上で飛び跳ねたり、枕を投げ合ったりと大騒ぎを始め、その騒ぎ声は階下まで響き渡り、せっかくのティーパーティーの雰囲気は台無しになってしまいました。

一方、子猫たちの服を着て上機嫌だったパドルダックたちは、そのまま近くの池へと向かいました。そして、手に入れたばかりの洋服を着たまま、冷たい水の中に飛び込んで泳ぎ始めます。しかし、子猫たちの服は彼らの体には大きすぎましたし、特にトムのスーツにはもうボタンが一つも残っていませんでした。水の中を動き回るうちに、服はどんどん脱げ落ち、あっという間に池の底へと沈んでいってしまいました。

この物語は、ビアトリクス・ポターの別の有名な作品である『ひげのサムエルのおはなし』とも関連があります。『ひげのサムエルのおはなし』では、恐ろしいねずみのサムエル・ウィスカーズとアナ・マライアが、タビタ夫人の家でパイを作るためにトムを捕まえようとするエピソードが描かれています。『こねこのトムのおはなし』で二階に追いやられたトムが、どのようにしてサムエルたちの標的になったのかを示唆する繋がりを見つけることができます。

服を失ってしまったパドルダックたちは、今でも池の底に沈んだ洋服を探していると言われています。水面に逆立ちして、お尻を突き上げているあひるたちの姿は、この物語のユーモラスで印象的な結末として、読者の心に長く残ることでしょう。『こねこのトムのおはなし』は、子供たちのいたずらや失敗、そしてそれに対する親の反応がリアルかつ温かく描かれた、ビアトリクス・ポターの魅力が詰まった一冊です。

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