こばやし峠

こばやし峠

こばやし峠は、北海道札幌市中央区盤渓と南区北ノ沢を結ぶ山越えの道として知られています。かつては北海道道82号西野真駒内清田線の一部を成していましたが、盤渓北ノ沢トンネルの供用開始に伴い、その役割を終え現在は旧道となっています。しかし、この峠道は、単なる交通路としてだけでなく、地域の交通網整備における長年の苦難と、それを乗り越えた人々の情熱を伝える歴史的な意味合いを持っています。

歴史的背景と難路の時代

峠が位置する盤渓と北ノ沢は地理的には隣接していますが、かつてはその間に立ちはだかる山々によって隔てられ、容易な往来が叶いませんでした。両地区を結ぶのは、急峻な地形を縫うように続く踏み分け道しかなく、人々の移動は極めて困難を伴いました。特に冬期間は通行がさらに厳しさを増し、この不便さから、峠道は「嫁泣かせ峠」と俗称されるほどでした。

このような状況の中、本格的な道路整備を強く願う人物が現れます。北ノ沢で育った小林新夫氏は（後に産業観光開発道道促進期成会会長を務める）、幼い頃にこの山道を通学した経験から、安全で確実な道路の必要性を痛感していました。彼はこの道路整備こそが地域発展の要であると考え、その実現に情熱を燃やすことになります。

開削工事と命名の由来

小林氏は道路開削の実現に向け、精力的な活動を展開します。1956年（昭和31年）には、自ら期成会を立ち上げ、関係各所への働きかけを始めました。こうした粘り強い活動が実を結び、ついに1960年（昭和35年）に開削工事が幕を開けます。しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。建設現場は重機が滑落するほどの険しい地形に加え、厳しい自然条件も相まって、工事は遅々として進まず、実に6年もの歳月を要する困難を極めました。多くの苦難を乗り越え、1965年（昭和40年）11月、ついに念願の開通を迎えることとなりました。

開通に際して行われた式典では、この道路建設に多大な貢献を果たした小林氏の功績を称え、その名にちなんで「こばやし峠」と名付けられました。命名に際しては、ひらがな表記が採用されています。ただし、国土地理院の地形図などでは、漢字で「小林峠」と記されることもあります。

その後の展開と現在の状況

峠の開通により、盤渓と北ノ沢間の交通は飛躍的に改善され、地域の産業や生活に大きな恩恵をもたらしました。長年の悲願達成を記念し、峠の最高地点近くには1989年（平成元年）10月に記念碑が建立され、後世にその歴史を伝えています。

時代は下り、より安全で円滑な交通路の確保が求められる中で、2017年（平成29年）2月3日には、峠の直下を貫く盤渓北ノ沢トンネルが開通し、道道82号の本線はこちらに移されました。この新しいトンネルの開通後も、かつて本線であったこばやし峠の旧道は引き続き通行が可能であり、歴史を物語る道として、また周辺住民や利用者の生活道路として、その役割を果たし続けています。難工事の末に開かれたこの峠道は、地域の発展に寄与した先人の努力を今に伝える貴重な存在と言えるでしょう。

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