これでもまだくたばらぬ

《これでもまだくたばらぬ》

フランシスコ・デ・ゴヤによる銅版画《これでもまだくたばらぬ》（原題: Y aun no se van!）は、1797年から1799年の間に制作された作品です。この版画は、80点から成る版画集『ロス・カプリーチョス』の中の第59番であり、ゴヤの重要な作品のひとつとして評価されています。

作品の描写

この作品には、極端に痩せた裸の人物が力を振り絞り、巨石を持ち上げようと奮闘している姿が描かれています。彼の上半身は石に押しつぶされそうになっており、その影には横たわる別の人物が存在します。この横たわっている人は、プラド美術館が所蔵する準備素描では、石を持ち上げようとしている男を信じるかのように彼を見つめています。その後方には魔女が立って恐怖に満ちた顔で男の苦しみを見つめており、さらに別の魔女たちが彼に対し冷たい視線を投げかけています。黒い背景から差し込む白い光が、人物たちを暗闇から浮かび上がらせ、神秘的で演劇的な雰囲気を醸し出しています。

この作品は、スペイン国立図書館所蔵の原稿で、無知と悪徳に囚われた人間が、避けられない死の危険に直面している状況が描かれています。運命の不安定さを意識しない者がどうなってしまうのか、そしてその結果を受け入れられるのかを問う作品です。最終的に、作品のタイトルは「これでもまだくたばらぬ」に決定され、「甘言に惑わされながらも生き続ける人々への批判」というテーマが強調されています。

図像の起源

この作品の構図は、オランダの画家マルティン・ファン・ヘームスケルクの版画に基づいています。特に、作品は『旧約聖書』「創世記」に登場するヤコブの物語にインスパイアされています。ヤコブは神から約束された場所で夢を見ながら石を枕にして眠った後、神からの指示を得ることになります。この物語において、ヤコブはそれを礎にし、聖別された場所を建立することになります。

ゴヤは、ヘームスケルクの力強いヤコブを、今の作品のような痩せた人物の姿に変えています。魔女たちとの取り交わされる約束は、知識や信仰の試練として捉えられます。もともとのタイトル「わな」には、魔女たちが忠実ではなく、持っている力が単なる仮面であることが暗示されています。これが、作品のテーマとなっている「人間の悪徳」に対するゴヤの批判を強化しています。

解釈と影響

この作品は、19世紀の著名な詩人シャルル・ボードレールや他のスペインの啓蒙思想家たちによって様々に解釈されました。特に、旧勢力と新勢力の対立が描かれていると捉えられ、無知を象徴する巨大な石板を通じた寓意が言及されています。ゴヤの楽観主義が見え隠れする一方で、理想的な未来への希望も表れています。

来歴

この作品の下絵は、ゴヤの死後、彼の家族を経て様々なコレクターの手に渡り、最終的にプラド美術館に収蔵されました。ゴヤの版画集はその後も重要な芸術作品として、多くの人々に影響を与え続けています。

このように《これでもまだくたばらぬ》は、単なる芸術作品としてではなく、社会への鋭い批判とその背後にある深い心理的な洞察を含んだ作品として、今なお鑑賞者にさまざまな思索を促しています。

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