さよならのあとで

ジャッキー吉川とブルー・コメッツが1968年10月にリリースしたシングル曲「さよならのあとで」は、グループにとって重要な転換点を示す一曲として位置づけられています。作詞を橋本淳、作曲・編曲を筒美京平が手掛けたこの楽曲は、前年に彼らが表明した「脱グループ・サウンズ（GS）宣言」の後、最初に発表されたシングル盤でした。

この楽曲の大きな特徴の一つは、それまでのブルー・コメッツの楽曲とは異なるボーカル構成にあります。当時の若手メンバーであった三原綱木がメインボーカルを務め、そこに井上忠夫の歌唱が情感豊かに絡み合う形式が採られました。さらに、楽曲のクライマックスでは井上によるセリフも挿入されるなど、従来のバンドサウンドとは一線を画す、歌謡曲色の強いアレンジが施されています。

商業的にも一定の成功を収め、オリコンのシングルチャートでは最高3位を記録しました。この時期、ブルー・コメッツのレコードセールスは以前ほどの勢いを欠いていたため、「さよならのあとで」のヒットはグループに新たな活力を与えるものとなりました。しかし、音楽史的な視点から見ると、この楽曲はしばしば論争の的となります。

後年、グループ・サウンズの歴史を振り返る際に、「さよならのあとで」は「GSが本来持っていたロックやポップスの要素を薄め、歌謡曲へと接近していった」象徴的な一曲として、あるいはその変質を加速させた「尖兵」「戦犯」のように語られることが少なくありません。中には、この楽曲以降のブルー・コメッツを純粋なGSとして扱うことに抵抗を感じる、といった厳しい意見も聞かれます。これは、当時の日本の音楽シーンにおいて、GSというジャンルがどのように受け止められ、またどのように変化していったかを示す一例とも言えるでしょう。

このような批判的な見方に対し、ブルー・コメッツの元メンバーは「ブルー・コメッツは、特定のジャンルに閉じ込められる存在ではなかった」と反論しています。彼らの説明によれば、エレキサウンドが流行した時期には「エレキバンド」、フォークが人気だった頃は「フォークグループ」と呼ばれるなど、時代の流行や演奏する音楽性に応じてその捉えられ方や呼び方が変化してきたのであり、常に変化し続けることが彼らの音楽性の本質であった、という主張です。この言葉は、「さよならのあとで」における歌謡曲への接近も、彼らにとって自然な音楽的進化の一環であったことを示唆しています。

また、このシングルのリリースは、日本コロムビアとアメリカのCBSレコードとの提携が終了した後のことでした。そのため、洋楽レーベルである「COLUMBIA」（通称L盤）の国内向けリリースという形で発表されています。楽曲の内容自体は明らかに日本の歌謡曲でしたが、レコードの分類上はポピュラーソングに属していたため、当時のコロムビアのラジオ番組「L盤アワー」では、海外アーティストのヒット曲と並んで「さよならのあとで」が紹介されるといったユニークな扱いを受けていました。

「さよならのあとで」は、A面、B面ともに作詞：橋本淳、編曲：筒美京平という制作体制で、多くのベストアルバムやコンピレーション盤に収録されています。また、沢たまきや角川博といった他のアーティストによるカバー、さらにはメンバーの三原綱木と杉真里によるデュエット「綱木&真里」としてのセルフカバーとも言えるコラボレーションバージョンも存在し、発表から時を経ても様々な形で再演され続けている楽曲です。これは、この楽曲が持つメロディーや歌詞の普遍的な魅力、そしてそれが生み出した音楽史における独特な位置付けを物語っていると言えるでしょう。

このように、「さよならのあとで」は、ジャッキー吉川とブルー・コメッツのキャリアにおける商業的な成功と音楽性の変遷、そして後年の音楽史における評価という多角的な側面を持つ、複雑で興味深い楽曲です。

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