さるのこしかけ (小説)

『さるのこしかけ』

宮沢賢治による短編童話『さるのこしかけ』は、彼の生前には未発表の作品でした。物語の中心には、少年・楢夫の不思議な体験が描かれており、彼はサルに導かれながら冒険の世界へと足を踏み入れます。この作品は改作や他の作品に組み込まれることはありませんでしたが、他の賢治の作品にも共通するモチーフが使用されています。特に、山男や種山ヶ原などが挙げられます。

あらすじ

物語は、楢夫が自宅裏の栗の木のもとで、白いきのこ「さるのこしかけ」が3つ生えているのを見つけるところから始まります。彼は、そのきのこに座るサルはきっと小さな存在だろうと想像しながら、ふと考えを巡らせていると、目の前に現れたのは三匹の猿でした。この中で一匹は軍服を着ており、見た目はまるで60歳の陸軍大将のようです。猿は自らを大将だと名乗り、楢夫に対して尋問を始めます。

楢夫は彼の言葉に反発しますが、大将の猿は一転して丁重な態度に変わり、「いい所へお連れする」と誘います。果たして、大将は楢夫を栗の木の内部へと案内します。その内部は煙突状の空洞となっており、壁沿いに伸びる階段を上がっていく楢夫。すると、やがてその先には開けた空間が広がっていました。大将の猿はこれが種山ヶ原であると紹介します。

種山ヶ原では他にも多くの小猿たちがいて、大将の指示のもとでリハーサルを開始します。小猿の兵隊たちが一斉に楢夫に向かって突進し、まさかの網で彼を捕まえてしまうのです。猿たちはこぞって大将の号令で楢夫を胴上げし、何度目かの後、彼を地面に落とそうとしますが、そこに山男が現れ、楢夫を受け止めてくれます。

最後には、気がつくと楢夫は自宅前に戻っており、彼の不思議な冒険が終わります。当作品は、現実と幻想が交錯する中で、少年の冒険心や驚き、そして成長を象徴的に表現したものと言えます。賢治の独特な描写力によって、読者はその場面を鮮明に思い描くことができるでしょう。

この『さるのこしかけ』は、宮沢賢治の作品の中でも特に魅力的で、幻想的な要素に富んでいます。彼の作品に触れることで、私たちは日常の中に潜む不思議や冒険の可能性を再発見することができるのです。

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