それから先のことは…

1976年12月20日、加藤和彦のソロ名義としては通算3作目となるアルバム『それから先のことは…』が発表されました。これは彼にとって、キャリア初の全編アメリカでのレコーディングを実現した作品です。サディスティック・ミカ・バンド解散後、実に5年ぶりのソロ作となった本作は、当時公私にわたるパートナーであった作詞家の安井かずみ氏との、記念すべき最初の共作アルバムでもあります。

サディスティック・ミカ・バンド解散後、加藤氏は音楽活動から一時的に距離を置き、シンガポールなどを旅して過ごしていました。しかし、1976年に入り、安井氏と共に音楽制作に取り組むという新たな構想を温め始めます。その核となったのは、当時多くの著名アーティストの作品に参加し、独自のサウンドで高い評価を得ていたマッスル・ショールズ・リズム・セクションとの共演というアイデアでした。ミカ・バンド時代から彼らの生み出す音に強い関心を持ち、その再現を試みてきた加藤氏は、この機会に本場アメリカへ渡り、彼らとのレコーディングに挑むことを決意します。

本作において、加藤氏は特にスワンプ・ロックのスタイルに傾倒しました。レコーディングは複数箇所で行われ、まず加藤氏が日本から持ち込んだ楽曲を基に、アラバマ州シェフィールドのマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオでリズム隊とホーン・セクションの演奏が録音されました。その後、マイアミのスタジオでストリングスが加えられ、最終的なミックスダウンとマスタリングはロサンゼルスのスタジオで行われています。

後年、加藤氏はこのアルバムについて「私小説アルバムのようなもの」と振り返っています。また、本作の発表に合わせるように、1977年には安井氏との共著によるエッセイ集『キッチン & ベッド』（主婦と生活社刊）が出版されており、これはアルバム収録曲と同名のタイトルが付けられています。

アルバムのアートワークも特筆すべき点があります。オリジナル盤のカバーにはエンボス加工が施され、質感のある仕上がりとなっています。インナースリーヴには歌詞と詳細なクレジット情報が掲載されました。カバーに使用されたポラロイド写真は、加藤氏と安井氏がロス滞在時に定宿としていたビバリーウィルシャー・ホテルで、お互いを撮り合ったものです。フロントカバーで加藤氏が着用しているスーツは、高橋幸宏氏のブランド「Bricks」のものであることも記されています。初回盤のレコード帯には印象的なキャッチコピーが添えられていました。

全曲の作詞は安井かずみ氏が担当し、作編曲は加藤和彦氏自身が行っています。

主な収録曲には以下のようなものがあります。

シンガプーラ: アルバム発売前にシングルカットされ、シンガポール航空のCMにも使用されました。後にアグネス・チャンや杏子によってカバーされています。
それから先のことは
キッチン&ベッド
貿易風: 1977年にアグネス・ラムが「Trade Wind」としてカバーしています。

本作の制作には、プロデューサーとして加藤和彦氏自身と新田和長氏が名を連ねています。ホーンとストリングスのアレンジはマイク・ルイスが担当しました。マッスル・ショールズ・リズム・セクションからは、ジミー・ジョンソン（エレクトリックギター）、バリー・ベケット（キーボード）、ロジャー・ホーキンス（ドラムス）、デヴィッド・フッド（ベース）といった名プレイヤーが参加。また、ピート・カー（アコースティック＆エレクトリックギター）やティム・ヘンソン（キーボード）なども参加しています。マッスル・ショールズ・ホーンズのメンバーも名を連ねています。エンジニアはジェリー・マスターズ、スティーヴ・メルトンらが担当しました。

『それから先のことは…』は、加藤和彦が新たな音楽的方向性を模索し、海外での制作を経験することで、その後のキャリアに大きな影響を与えた重要な作品と言えるでしょう。

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