ちいちい袴

佐渡ヶ島に伝わる民話「ちいちい袴（ちいちいばかま）」、または「ちいちい小袴（ちいちいこばかま）」をご存知でしょうか。古くから語り継がれてきたこの物語は、ある老婆の不思議な体験を描いています。

昔々、一人暮らしの老婆が夜なべをして糸を紡いでいました。すると、突然、四角張った顔をした、袴姿の小さな男が現れたのです。その男は老婆にこう言いました。「おばあさん、お寂しいでしょう。私が踊って差し上げましょう。」そして、不思議な歌を歌いながら、姿を消しました。「ちいちい袴に、木脇差をさして、こればあさん、ねんねんや」。

老婆は、この出来事に強い不気味さを感じ、家の中をくまなく探しました。すると、縁の下から、鉄漿（かね）付けに使っていた楊枝を発見します。老婆はこの楊枝を火で焼き捨てました。すると、それ以来、奇妙な出来事は二度と起こらなくなりました。

この物語では、古くなった鉄漿付けの楊枝を焼き捨てるという、古くからの習慣が重要な意味を持っています。古くなった楊枝は、そのままにしておくと良くないことが起こると信じられていたのかもしれません。

実は、「ちいちい袴」と似た民話は、岡山県や大分県にも伝わっています。近年の研究では、物語に登場する小さな男は、使い終わった楊枝が変化した付喪神（つくもがみ）―つまり、古くなった道具などに宿る妖怪―であるという解釈もあります。

さらに、有名な民俗学者である小泉八雲の著書にも、「ちんちん小袴」という民話が登場します。これは「ちいちい袴」と非常に似た内容で、不精な女性が不用意に捨てた爪楊枝が、無数の武士姿の妖精に変化し、その女性を病気にさせてしまうという話です。

これらの民話を比較検討すると、古くなった道具を大切に扱わなかったり、粗末に扱ったりすることへの戒めが込められていると推測できます。また、古来から人々は、自然や身の回りの物に精霊が宿ると信じ、それらを敬うことで生活を守ってきたという、古人の信仰や生活様式を垣間見ることができる興味深い物語と言えるでしょう。

「ちいちい袴」という短い民話の中に、古人の生活様式や信仰、そして自然への畏敬の念といった、様々な要素が凝縮されていることに気づかされます。現代社会において、私たちは便利な道具に囲まれて暮らしていますが、この民話から、物を大切にする心や、自然への畏敬の念を改めて考える良い機会となるのではないでしょうか。

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