のこぎり屋根工場

のこぎり屋根の工場建築

概要

「のこぎり屋根」（のこぎりやね）は、鋸の刃に似た独特の形状を持つ三角屋根の建物で、主に繊維産業に使用されてきました。この型の屋根は、特に紡績や織物、染色工場で多く見られ、工場の象徴的な存在とされています。「のこぎり」とも呼ばれ、英語では「northlight shed」または「saw tooth roof」と表現されます

歴史

のこぎり屋根工場の起源は、1820年代のイギリスに遡ります。動力織機の普及とともに、産業革命の流れの中で誕生しました。日本においては、1883年に大阪で建設された大阪紡績三軒屋工場が最初とされています。これに続いて、1880年代から1890年代にかけて、東京、岡山、群馬など各地でのこぎり屋根工場が建設されました。

特に群馬県桐生市では、明治から昭和にかけて多くの工場が建設され、初期には外国製の機械を取り入れた洋式工場が主流でした。この地域では、1969年を最後に新たにのこぎり屋根工場は建設されていないとされています。

特徴

のこぎり屋根工場の特長は、屋根の短辺部分に大きな採光面が設けられていることです。これは工場内を明るく保つためで、特に北側からの間接光を利用することで、太陽の直射日光による影響を軽減し、光量の変化を最小限に抑えます。このため、布地の柄や色合わせといった作業に適しているのです。

屋根の形状は、工場内部に必要な高さを提供し、効率的に作業を行える環境を整えています。ただし、まれに南向きの採光面を持つ工場も存在しますが、その理由は不明です。

欧州における影響

イギリスでは、繊維産業が急速に発展していた18世紀から19世紀にかけて、のこぎり屋根が多くの工場建築に採用されました。例えば、1827年に建設されたMOSCOW MILLがその一例です。この工場は、その後資料館とショッピングセンターとして利用されています。

日本の状況

日本国内では、一宮市や尾西地方において多くののこぎり屋根工場が存在しました。特に一宮市では、1972年に最も多くの繊維関連工場が記録されていましたが、その数は年々減少しています。適切な採光と作業環境を提供したのこぎり屋根工場は、特に安定した光源を求められる繊維産業にとって重要な建築でした。

尾西地方では、明治から昭和初期にかけて繊維工場が盛んに建設され、戦後も多くの工場が稼働していました。しかし、近年は繊維不況や老朽化により、取壊しが進む一方で、工場の再活用も進んでいます。アートスペースやカフェなどとして新たな活用が模索されているのです。

まとめ

のこぎり屋根は、歴史の中で繊維産業と共に歩んできた建築様式であり、そのデザインは実用性を追求したものとなっています。近年の工場閉鎖や廃業が進む中で、その役割や価値が再評価されることが期待されます。優れた採光性能を持つこの屋根は、今後も工業遺産としての保存・活用が求められることでしょう。

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