のらぼう菜

のらぼう菜（野良坊菜）

のらぼう菜は、東京都西多摩地方（あきる野市、青梅市など）や埼玉県の一部で栽培されているアブラナ科の野菜で、江戸東京野菜の一つです。その歴史は古く、江戸時代初期にはすでに各地で栽培されていたと伝えられています。

歴史

のらぼう菜の起源は定かではありませんが、一説には、ジャワ島を経由してオランダの交易船が持ち込んだセイヨウアブラナの一種「闍婆菜（じゃばな）」が原種であると言われています。この闍婆菜が各地に広まり、西多摩地方でも栽培されるようになったとされています。

「のらぼう」という名前の由来ははっきりしていませんが、耐寒性に優れ、花茎を折っても次々と脇芽を出す強い生命力を持つことが特徴です。江戸時代後期には、関東郡代の伊奈忠宥が種子を江戸近郊の村々に配布し、その普及によって天明・天保の大飢饉の際に人々を飢餓から救ったという記録が残っています。この功績を記念し、あきる野市の子生神社には「野良坊菜之碑」が建立されています。

収穫後の鮮度保持が難しく、長距離輸送には不向きなため、主に生産地周辺で消費される地方野菜として受け継がれてきました。しかし近年、その独特な風味と栄養価が注目され、産地であるあきる野市は、東京都農業試験場などと協力して品種改良に取り組んでいます。

品種の特徴

のらぼう菜はセイヨウアブラナの系統に属し、耐寒性に優れています。外見はカキ菜や冬菜に似ていますが、葉のふちがギザギザになることや、茎などが赤紫色を帯びることが特徴です。また、アブラナ科の植物としては珍しく、近縁種との交雑が起こりにくいという性質を持っています。

本来の旬は3月下旬からの短い期間ですが、近年では2月初旬から出荷可能な早生種も出回っています。あきる野市の生産者団体は、早生種の普及による品質低下を防ぐため、東京都農林総合研究センターに試験栽培を依頼し、食味に優れた2品種を選定しました。これらの品種は、交雑を防ぐためにあきる野市の山間部で種子を採取し、会員のみが入手できるようになっています。

栽培

のらぼう菜は比較的栽培が容易で、家庭菜園にも向いています。種まきは秋に行い、畑で冬越しさせて春に収穫します。連作障害を起こしやすいため、輪作が必要です。肥料は堆肥や鶏糞などを多めに施すと、品質の良いものが収穫できます。春になると脇芽がどんどん出てくるため、花が咲く直前の柔らかい枝葉とともに花茎を摘んで収穫します。

調理法と利用

冬を越して春に成長した花茎を手で折り取って収穫します。収穫したてのものは甘みがあり、雑味がなく柔らかいのが特徴です。鉄分、ビタミンA、ビタミンC、食物繊維などの栄養素を豊富に含んでいます。茹でてもかさが減らないため、おひたしや胡麻和え、バター炒め、味噌汁の具など、様々な料理に利用できます。

生命力が強く、複数回の収穫が可能なため、家庭菜園にも適しています。また、種子を絞って油を採ることもできます。

のらぼう菜は、その歴史と独特の風味、そして豊富な栄養価から、地域に根ざした貴重な野菜として、今後も受け継がれていくことでしょう。

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