ひとり旅 (松本清張)

ひとり旅

概要

松本清張による「ひとり旅」は短編小説とエッセイという二つの作品から成り立っており、同名ではありますが、内容的には独立しています。短編小説は1954年の『別冊文藝春秋』に初めて紹介され、その後1987年の短編集『延命の負債』に収録されました。一方、エッセイは1955年に発表され、二つの節で構成されています。

短編小説「ひとり旅」のあらすじ

物語の主人公、田部正一は九州出身の男性で、幼少期からの旅行への憧れを抱きながらも、経済的な理由から実際に旅に出ることは叶いませんでした。やがて職と住処を失い、亡き妻の実家に身を寄せる田部は、買物籠製造業者の杉岡から仕事を紹介され、見知らぬ土地を訪れる機会を得ることになります。彼は広島、柳井、大津、飛鳥路などを訪ね歩き、少しずつ幼い頃から抱いていた旅への夢を実現させていきます。しかし、商用に振り回される日々が続く中で、田部は自分の希望する「自由な旅」ができないことに不満を感じ始めます。

三年後、名古屋の銀行で外務係として成功した田部は、洋裁店を持つ遠藤ユキとの関係が深まります。ユキは離婚し、田部も彼女との時間を大切にするようになりましたが、二人の関係には複雑な問題が絡みます。ユキの元夫が帰宅し、自分の存在を脅かすと同時に、田部の職場でも不正貸付の発覚が迫ります。二人はその危機から逃れるため、夜行列車で西へ旅立つことを決めます。

この小説は、自由を求める主人公の葛藤と、孤独な旅が持つ意味を織り交ぜながら描かれています。田部の心の底にある旅に対する想いは、現代社会に生きる私たちにも共鳴する部分が多いでしょう。

エッセイ「ひとり旅」の内容

エッセイ部分は、「芸備線の一夜」と「九州路」の二つの節から成り立っています。「芸備線の一夜」では、1948年に広島を訪れる際に清張の父の故郷を訪ねる様子が描かれています。特に、備後落合で出会った年配の夫婦の会話の描写は印象的です。彼らの夜を徹して行われる無言の交流が、清張の後の作品『砂の器』に影響を与えたと考えられています。このエッセイは、旅の中で得られる人間関係や孤独感、心の癒しなどを探求しています。

まとめ

松本清張の「ひとり旅」は、彼の感受性豊かな筆致で、孤独や自由、そして人間関係の複雑さを描写した作品です。短編小説・エッセイ共に、旅が私たちに何をもたらすのか、何を考えさせるのかを深く掘り下げており、読者にさまざまな思索を促します。

もう一度検索