ふたりのイーダ

ふたりのイーダ

『ふたりのイーダ』は、日本の著名な児童文学作家、松谷みよ子によって書かれた作品です。1969年に初版が刊行された本作は、戦争や環境問題に対する悲しみを描く「直樹とゆう子の物語」シリーズの第一作です。この物語は、幼い兄妹と話すことができる不思議な椅子との交流を通じて、原子爆弾の悲劇に触れていきます。

あらすじ

物語は1960年代の夏、東京から広島県の花浦に移り住む兄妹、直樹とゆう子の視点で語られます。母親の出張中、祖父母の元で過ごす彼らが最初に遭遇したのは、「イーダ」という少女が過去に住んでいた古びた洋館です。この洋館で直樹は、自らを「イーダ」と名乗るゆう子のような椅子を見つけるのです。椅子はしいられている存在ですが、ゆう子の遊び相手として彼女と楽しい時間を過ごします。

やがて、椅子はゆう子がかつて姿を消したイーダであると主張します。ゆう子自身もこの言葉を信じ、自然に洋館を我が家のように振る舞います。町の女性、りつ子との出会いが、真実へと導く重要なカギとなります。彼女によれば、イーダは広島に投下された原爆によって亡くなった少女であり、ゆう子がその生まれ変わりである可能性があるのです。

しかし、直樹が椅子にイーダの死を告げると、椅子は真実を受け入れず、ゆう子の背中にほくろがあるはずだと主張します。結局、ほくろが見つからなかったことで、椅子は力を失い壊れてしまうのです。物語の終盤、帰宅後に届いたりつ子からの手紙で、彼女もまた過去の悲劇の影響を受けていることが明らかになります。

登場人物

• - 直樹（なおき）: 物語の語り手で、小学3年生。妹のゆう子を守る頼れる存在。
• - ゆう子（ゆうこ）: 直樹の妹で、2歳11か月。自身の名前にしっかりした愛着を持ち、楽しそうに日々を過ごす。
• - りつ子（りつこ）: 直樹たちの家族の知人で20代の女性。彼女の視点が物語の真実の鍵となる。
• - 椅子: 動き回り、しゃべる古い椅子。イーダを待っている不思議な存在。

作風とテーマ

本作の中心的な要素は、兄妹と椅子の交流を通じて展開される物語の構造です。この作品は推理小説の形式を取り入れ、原爆の影響とその真実を子どもたちにわかりやすく伝えています。松谷みよ子は原爆というテーマに対し、良い形で子どもたちに考えさせる意図を持っていたことが伺えます。物語はファンタジー的要素を強調しつつ、原子爆弾の被害の重みも感じさせる巧妙な描写がされており、家族愛や運命について深く考えさせる作品に仕上がっています。

製作背景

松谷は作品の根底に、平和への思いを込めたと語っています。彼女の独自の経験や心象を元に、物語が形作られていく過程は、彼女自身の子供時代の感覚とも結びついているのです。また、残酷な戦争の記憶から目を背けず、未来の世代にそれをどう伝えるかが大きなテーマとなっています。このようにして松谷は、彼女の物語作りを通じて、戦争の悲劇を後世に問いかけています。

評価

本書は、児童文学の中で高い評価を受け、世界中の読者に影響を与えています。さまざまな読者に向けて、松谷は戦争や平和の重要性を問い、核心的なメッセージをしっかりと伝えています。その結果、本作はただのファンタジーとしてではなく、歴史的な背景を持つ重要な作品として語り継がれていくことでしょう。

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