みみずく通信

「みみずく通信」は、昭和15年（1940年）11月、新潟高等学校で講演を行った太宰治の体験を基にした短編小説です。この作品は、単なる旅行記ではなく、太宰治の作家としての内面や、人間関係に対する深い洞察が織り込まれた、奥深い作品となっています。

11月15日、上野駅から新潟へと出発した太宰治は、16日に新潟高等学校で講演を行いました。講演では自身の作品である「思い出」や「走れメロス」の一節を引用し、友情をテーマに熱弁を振るったと伝えられています。学生たちとの交流も、この旅の大きな目的であり、作品中にはその様子が生き生きと描写されています。

講演後、太宰治は佐渡島へと足を運びました。17日には両津町に宿泊し、18日には相川町へと移動。高田屋旅館に一泊した後、19日早朝に帰路につきました。佐渡での滞在は、後に発表される「佐渡」という作品にも大きな影響を与えたと考えられています。佐渡の風景や人々の温かさ、そして自身の内面に迫る出来事が、太宰治の感性を刺激し、新たな創作へと繋がる契機となったのでしょう。

作品タイトルの「みみずく通信」は、俳人・其角の俳句「木菟（みみづく）の独わらひや秋の昏」から着想を得たものです。このタイトルからは、静寂の中に潜む何か、独特の雰囲気を感じさせます。みみずくという夜行性の鳥は、暗闇の中で鋭い視線を持つ存在として、太宰治の繊細な感性や、この小説に流れる独特の雰囲気を象徴しているのかもしれません。

小説の冒頭では、「先日、私の甘い短篇小説が、ラヂオで放送された時にも、私は誰にも知られないやうに祈つてゐました」という記述があります。これは、同年11月5日に放送された「ある画家の母」を指していると考えられています。この記述から、作家としての太宰治の繊細な心、そして作品への強い思いが窺えます。成功を収めたとしても、その裏には常に不安や葛藤を抱え、静かに祈るような、控えめな姿が見て取れます。

「みみずく通信」は、単なる旅行記や講演記録にとどまらない、太宰治の内面世界を深く探る旅の物語です。友情、孤独、そして作家としての葛藤など、様々な要素が複雑に絡み合い、読者に深い余韻を残す作品となっています。簡潔ながらも奥深い言葉選び、そして独特の雰囲気は、太宰治文学の魅力を凝縮したような、小さなながらも力強い一編と言えるでしょう。この作品から、私たちは太宰治の作家としての姿勢、そして人間としての深みを感じ取ることができるのです。

もう一度検索