りゅう座イータ星

りゅう座η星（Athebyne）

りゅう座η星（イータせい、η Dra, η Draconis）は、北天の星座であるりゅう座に輝く3等星です。夜空において比較的見つけやすい明るさを持つ恒星の一つとして知られています。この星は単独の星ではなく、二つの恒星がお互いの周りを巡る連星系を構成しています。

連星系の構造

りゅう座η星は、スペクトル型がG型の巨星である主星（η Dra A）と、スペクトル型がK型の主系列星である伴星（η Dra B）からなる重力的に束縛された連星系です。主星のA星は太陽に似た色合いを持ちながらも、すでに主系列段階を終えて膨張した巨星へと進化しています。一方、伴星のB星は、比較的低温でオレンジ色をした、太陽よりもやや質量の小さい主系列段階にある恒星です。

これら二つの星は、非常に広い軌道をとって公転しています。伴星のB星は、主星のA星から少なくとも140天文単位（au）以上離れた距離を周回しています。ここでいう天文単位（au）とは、地球から太陽までの平均距離を1単位とするもので、140auという距離は太陽系外縁部よりもはるかに遠い、広大な空間に二つの星が離れて存在していることを示しています。このような大きな軌道を一周する公転周期は非常に長く、推定では1万年を超える途方もない時間を要すると考えられています。このような広大な軌道を持つ連星系は、密接連星などと比べて相互の影響が比較的穏やかですが、それでも二つの星は共通重心の周りを巡り続けています。

名称の由来

りゅう座η星は、古くから伝わる様々な名称で呼ばれてきました。特に有名なのは、同じくりゅう座にあるζ星（ゼータせい）とともに使われた「Al Dhibain」という呼び名です。この名称は、アラビア語で「2匹のハイエナ」を意味する「Al dhi'bah」または「Al dhi'bān」という言葉に由来しています。古代アラビアでは、これらの星を夜行性の動物であるハイエナに見立てていたと考えられています。なぜりゅう座の二つの星がハイエナに喩えられたのか、その正確な背景は諸説ありますが、夜の空をさまようかのような星の動きや位置に関係していたのかもしれません。

しかし、長い歴史の中で様々な文化や言語で星に名前が付けられてきたため、恒星の固有名には多くの混乱が生じていました。この状況を整理し、恒星の名称を標準化するために、国際的な天文学の組織である国際天文学連合（IAU）は、「恒星の命名に関するワーキンググループ（Working Group on Star Names, WGSN）」を設立しました。

2017年9月5日、このIAUのWGSNによって、りゅう座η星の主星であるA星に対して、正式な固有名が決定されました。その名まえは「Athebyne」です。この「Athebyne」という固有名は、前述の伝統的なアラビア語名である「Al Dhibain」に由来する言葉の一つとされています。つまり、現代の天文学で公式に認められた名称は、数百年、数千年もの間、人々によって語り継がれてきた星の呼び名に根ざしているのです。これにより、りゅう座η星の主星は、学術的な符号であるη Dra Aだけでなく、Athebyneという固有の名前でも呼ばれることになりました。伴星であるη Dra Bには、2024年現在、公式の固有名は定められていません。

りゅう座η星、すなわちAthebyneは、その連星としての特徴や、古代から現代へと引き継がれる名称の歴史を通じて、天文学の研究対象として、また文化的な遺産としても興味深い存在と言えます。

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