わらの男

『わらの男』（原題:L'uomo di paglia）は、1958年に公開されたイタリアのドラマ映画であり、監督と主演を務めたのはピエトロ・ジェルミです。第11回カンヌ国際映画祭にも出品されたこの作品は、T・S・エリオットの詩「うつろな人々」の一節に由来するタイトルが示す通り、人間の心の奥底にある寂寥感や葛藤を繊細に描き出しています。

物語の中心人物は、ローマで機械工として働くアンドレアです。妻のルイザと8歳の息子ジュリオと共に、一見平凡な日々を送っていました。しかし、息子のジュリオが肺炎を患い、ルイザがジュリオを連れて実家に帰省することになります。アンドレアは週末ごとに実家を訪れ、家族と離れて過ごす寂しさを紛らわしていました。

そんな中、アンドレアはリータという女性と出会い、惹かれ合っていきます。しかし、ジュリオの病気が快方に向かい、ルイザが帰ってきたことで、二人の関係は複雑さを増していきます。アンドレアはリータとの逢瀬を続け、ある日散歩を装ってリータに会いに行きます。しかし、その様子をジュリオと愛犬が追いかけてきた際に、愛犬がトラックにはねられ死んでしまうという悲劇が起こります。この出来事を境に、リータはアンドレアとの関係に終止符を打つことを決意します。

クリスマスが近づく頃、リータは絶望の淵に突き落とされ、自ら命を絶ってしまいます。この事実をアンドレアは教会で妻のルイザに打ち明けます。深い悲しみに沈むルイザは、息子ジュリオと共に実家に戻ることを選びます。新年を迎えた喧騒の中、アンドレアは静かに一人、自宅で新年を迎えました。そして、妻と息子の帰りを待ちます。

この映画は、単なる恋愛ドラマに留まらない奥行きを持っています。アンドレアの心の内面、家族との関係、そしてリータとの禁断の恋、それぞれの感情が複雑に絡み合い、観る者に深い余韻を残します。ピエトロ・ジェルミの繊細な演技と、イタリアの風景が織りなす美しい映像も相まって、観る者の心に深く刻まれる作品となっています。

キャストには、ピエトロ・ジェルミ自身に加え、ルイザ・デラ・ノーチェ、エドアルド・ネボラ、フランカ・ベットーヤといったイタリア映画界の実力派俳優たちが名を連ねています。それぞれの俳優の熱演によって、登場人物たちの感情がリアルに表現され、物語に深みを与えています。

『わらの男』は、一見静かな物語ですが、その奥底には人間の心の複雑さと脆さ、そして生の悲しみと喜びが凝縮されています。イタリア映画ならではの繊細な演出と、心に響く物語は、多くの観客を魅了し続けています。映画のタイトルにもなっている「わらの男」という言葉は、アンドレア自身の心の空虚さを象徴していると言えるでしょう。彼の内面の葛藤と、周囲の人々との関係を通して、人間の存在の根源的な問いかけを投げかけていると言えるのではないでしょうか。

もう一度検索