アイム・オンリー・スリーピング

「アイム・オンリー・スリーピング」（I'm Only Sleeping）

「アイム・オンリー・スリーピング」は、イギリスのロックバンド、ビートルズによって制作された楽曲です。公式クレジットはレノン＝マッカートニー名義となっていますが、その内容は主にジョン・レノンによって構想され、書き上げられました。1966年に最初に発表され、アメリカ合衆国およびカナダでは同年6月にキャピトル・レコードからリリースされた編集アルバム『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』に、本国イギリスではその約2ヶ月後の8月5日に発売されたバンドにとって7枚目の公式オリジナル・アルバム『リボルバー』に収められています。この楽曲は、特にジョージ・ハリスンが演奏したギターパートに特殊な処理を施し、逆再生させたサウンドが取り入れられている点が大きな特徴です。

制作背景とレコーディング

この楽曲が書かれた1966年頃、ジョン・レノンはツアー期間中ではない時期には自宅で過ごす時間が多く、睡眠や読書、テレビ鑑賞といった活動に没頭していました。当時の作品にしばしば見られる薬物の影響による浮遊感とは異なり、この曲は純粋にベッドの中で過ごす時間の心地よさや、現実から一時的に離れることへの喜びがテーマとなっています。レノン自身、深い眠りを好む傾向があり、友人からは「イギリスで一番の怠け者」と評されることもありました。

レコーディング作業は、1966年4月27日にロンドンのEMIレコーディング・スタジオ（現アビー・ロード・スタジオ）で開始されました。この日、ベーシックなリズムトラックが録音され、構成は2本のアコースティック・ギター、ベース、ドラムというシンプルなものでした。合計11テイクが試みられ、最終的にテイク11がマスターとして採用されることになりました。その2日後の4月29日には、レノンのリード・ボーカルがオーバーダビングされました。さらに5月5日には、この曲の象徴とも言えるジョージ・ハリスンによる独創的なギターソロが録音され、翌5月6日にはレノン、ポール・マッカートニー、ハリスンの3人によるバッキング・ボーカルが重ねられて楽曲は完成に至りました。レコーディングの過程で、曲の中間部にあたるブレイク部分には、あくびの音が挿入されています。

特徴的なサウンド：逆回転ギター

「アイム・オンリー・スリーピング」の最も革新的な要素は、ジョージ・ハリスンが演奏したギターパートを逆回転させて楽曲に取り入れたサウンドです。プロデューサーのジョージ・マーティンと共に5時間にも及ぶセッションを経て、ハリスンが奏でたギターフレーズはテープ上で反転再生されました。この技術を用いることで、楽曲全体におぼろげで幻想的な雰囲気がもたらされています。ギターサウンドにはファズ処理も施されており、その歪んだ響きも特徴の一つとなっています。当時のレコーディング・エンジニアだったジェフ・エメリックは、ハリスンがヘッドフォンを装着し、集中して何時間もギターを演奏していた様子を後に回想しています。

リリースと収録形態

本楽曲は、まず北米市場向けに編集されたアルバム『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』に収録され、1966年6月20日に発売されました。同アルバムではA面2曲目に配置されています。その後、本国イギリスでビートルズの公式アルバムとして発表された『リボルバー』に収録され、同年8月5日にリリースされました。イギリス盤『リボルバー』ではA面3曲目に収められています。北米ではキャピトル編集盤に収録されたため、『リボルバー』のアメリカ盤には本楽曲は含まれていません。

モノラル・ミックスとステレオ・ミックスでは、逆回転ギターソロが登場するタイミングや長さが微妙に異なっていましたが、1987年のビートルズの作品の初CD化以降、ミックスはイギリス盤に準拠した形態に統一されています。1996年に発表されたアウトテイク集『ザ・ビートルズ・アンソロジー2』には、本曲の制作過程を垣間見ることができる音源が収録されており、ヴィブラフォンを使用したインストゥルメンタルのリハーサル・テイクの一部や、4月29日のセッションで記録されたテイク1などが収められています。

影響と評価

『リボルバー』収録楽曲でビートルズが導入した革新的な録音技術の数々は、その後の多くのミュージシャンやプロデューサーに計り知れない影響を与えました。「アイム・オンリー・スリーピング」における逆回転ギターサウンドもその一つであり、音楽学者のウォルター・エヴェレットは、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングが1969年に発表した楽曲「プリ・ロード・ダウン」における逆回転ギターパートに、本作からの影響を見て取っています。

批評家からの評価も高く、2018年にイギリスの雑誌『タイムアウト・ロンドン』が発表した「The 50 Best Beatles songs」ランキングでは、第12位にランクインしています。

参加ミュージシャン

本楽曲のレコーディングに参加したメンバーとそれぞれの担当パートは以下の通りです。

ジョン・レノン - リード・ボーカル、ハーモニー・ボーカル、アコースティック・ギター
ポール・マッカートニー - ベース、ハーモニー・ボーカル
ジョージ・ハリスン - アコースティック・ギター、逆再生させたリードギター、バッキング・ボーカル
リンゴ・スター - ドラム

主なカバーバージョン

「アイム・オンリー・スリーピング」は、後年多くのアーティストによってカバーされています。主なカバーを行ったアーティストには、ロザンヌ・キャッシュ、アメリカ、ヴィンス・ウェルニック、クォーオン、ジェフ・トゥイーディー、サッグス、ヤンダー・マウンテン・ストリング・バンド、オアシス+ステレオフォニックスなどが挙げられます。特にアークティック・モンキーズは、彼らのキャリアで初めてライブ演奏した曲が本作であったことでも知られています。また、トム・ビショップは2013年のアルバム『A Little Physics and a Lot of Luck』でカバーバージョンを収録しています。

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