アイルランドの医療

アイルランド共和国の医療制度は、ユニバーサルヘルスケアを理念とし、国民皆保険制度を有しています。アイルランド保健省の監督の下、公的医療と民間の医療が併存するシステムとなっています。

公的医療サービスは、Health Service Executive（HSE）が担っており、全居住者に対して保健・社会福祉サービスを提供する責務を負っています。2004年の保健法を基に、2005年から大規模な医療制度改革が実施され、サービスの改善が進められています。2007年のHSE調査では、入院患者の90%、外来患者の85%が医療サービスに満足しているという高い満足度を示しています。また、総合診療医（GP）への満足度は97%に達しています。

アイルランドは、GDPの8.2%（一人当たり3,996米ドル）を医療費に投じており、その約79%は公費負担となっています。一方、民間医療市場も盛んで、国民の47.6%が民間医療保険に加入しています。2008年のEuro Health Consumer Indexレポートでは、アイルランドの公的医療制度は欧州31カ国中11位と評価され、制度改革による顕著な改善が見られました。

医療サービスへのアクセスは、医療カード（Medical Card）の保有状況によって大きく異なります。医療カードは、所得や年齢、健康状態に応じて交付され、保有者は病院受診、GP訪問、処方薬など、多くの医療サービスを自己負担なしで利用できます。2005年のデータでは、人口の31.9%が医療カードを保有していました。医療カードの対象とならない国民も、GP Visit Card（GP医療無料）や、70歳以上の高齢者に対する年間400ユーロの医療費補助など、様々な支援策が用意されています。

医療カードを持たない国民は、GP医療に一定の自己負担が発生します。また、救急医療をGPの紹介状なしで受診する場合、追加費用が必要となります。入院費用も、一日あたり一定額の自己負担が課せられますが、年間の上限額が設定されています。専門医受診や特定の検査は、多くの場合自己負担なしで提供されます。

プライマリケアは、主に総合診療医（GP）が担っています。GPは開業医として活動するほか、HSEが運営する保健センターに勤務する場合もあります。多くのGPは訪問診療や、緊急の時間外診療も行っています。GP医療の費用は、医療カード保有者を除き、一回あたり一定額の自己負担となりますが、上限額が設けられています。

アイルランドの病院は、HSEが直接運営する病院のほか、非営利団体や民間企業が運営する病院もあります。多くの病院は、様々な診療科を備え、救急医療にも対応しています。急性期病院は53ヶ所あり、入院ベッド数は12,094床です。

処方薬は、Drugs Payment Schemeにより、月額の上限額が設定されています。特定の疾患の患者は、処方薬を無料または補助価格で利用できます。予防接種も無料です。

HSEは、歯科、眼科、聴覚ケアなどのサービスも提供しており、医療カード保有者などは自己負担なしで利用できます。メンタルヘルスや薬物依存治療などのプログラムも提供されています。

医療費の支払いには、Treatment Benefit Schemeなどの制度があり、自己負担額を軽減します。また、医療費控除制度も整備されており、税制上の優遇措置が受けられます。民間医療保険も利用可能で、いくつかの保険会社が競争的にサービスを提供しています。Health Insurance Authorityが、民間医療保険の規制を担っています。

アイルランドの医療制度は、国民皆保険制度を基盤に、国民の健康維持・増進を目指しています。しかし、自己負担額や医療サービスへのアクセスに関する課題も存在し、更なる制度の改善が求められています。

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