アウグスト・マッケ

アウグスト・マッケは、1887年にドイツのメシェデで生まれ、27歳という若さでこの世を去った画家です。彼の芸術活動は短期間でしたが、その作品は20世紀美術において重要な位置を占めています。

生涯

修業時代から「青騎士」へ

マッケは1904年からデュッセルドルフの美術アカデミーで学び始めました。1906年には『自画像』を制作しています。その後、美術コレクター、ベルンハルト・ケーラーの経済的援助を受け、1907年にパリへ渡ります。パリでは、セザンヌの作品から大きな影響を受けました。後に妻となるエリーザベトは、このケーラーの姪でした。パリ滞在後、マッケはベルリンに移り、ドイツ印象派の画家ロヴィス・コリントのアトリエで学びました。コリントは印象派でありながら、表現主義的な傾向も持っていました。

1910年頃、マッケの画風に転機が訪れます。「青騎士」の主要メンバーであるフランツ・マルクとの出会いがきっかけでした。「青騎士」は、ワシリー・カンディンスキーとフランツ・マルクを中心にミュンヘンで活動した前衛芸術家グループです。グループは、展覧会の開催や機関誌の発行などの活動を行いましたが、第一次世界大戦の勃発により短命に終わりました。しかし、その活動は20世紀の美術に大きな影響を与えました。グループ展には、キルヒナー、クレー、ドローネー、ピカソなど、様々な画風を持つ画家たちが参加しました。

1910年、マッケはミュンヘンでマルクと出会い、翌年にはマルクが住むジンデルスドルフに滞在します。1911年から1912年にかけては、クレーやドローネーとも交流を深めました。特にドローネーの色彩理論からの影響は大きく、彼の作品に顕著に表れています。マッケは「青騎士」の展覧会に2度参加し、他にもケルンやベルリンで開催された重要な展覧会にも出展しました。

チュニジア旅行と戦死

1913年の秋から翌年にかけて、マッケはスイスのトゥーン湖畔に滞在し、湖の風景や人々を題材にした作品を制作しました。1914年4月には、クレー、ルイ・モワイエと共にチュニジアへ旅行しました。この旅で、マッケはチュニジアの風景や鮮やかな色彩に強い衝撃を受け、多くの水彩画を制作しました。このチュニジア旅行は、マッケだけでなく、同行したクレーの画風にも影響を与えました。

チュニジア旅行から帰国後、マッケは新たな画風を模索していましたが、同年8月に第一次世界大戦が勃発。マッケは出征し、1914年9月26日、シャンパーニュの戦線で戦死しました。享年27歳でした。

作風

マッケは「青騎士」のメンバーとしてドイツ表現主義に分類されることもありますが、彼の作品は他の表現主義の画家のような、政治的・思想的な主張や感情的な表現とは一線を画しています。彼の作品は、キュビスムやドローネーの影響を受け、セザンヌの構図と、キュビスムの形態、ドローネーの色彩を統合した独自のスタイルを持っています。

マッケの作品は、純粋な抽象絵画は少なく、人物や風景などの具象的なモチーフが中心です。日常的な題材を好み、人物や樹木などの形態を単純化しながらも、現実感を損なわないように描いています。色彩は自然の色をそのまま再現するのではなく、絵画独自の表現を追求しています。また、水彩画家としても高く評価されており、チュニジア旅行で制作した作品は特に有名です。

代表作

『妻の肖像』(1909年)
『青い湖のほとりの人々』(1913年)
『緑の上着の婦人』(1913年)
『帽子屋の前で（赤い服の婦人と子供）』(1913年)
* 『牛とラクダのいる風景』(1914年)

マッケの作品は、その短い生涯にもかかわらず、今日まで多くの人々に愛され、美術史において重要な位置を占めています。

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