アウティング

アウティングとは

アウティング（outing）とは、ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー（LGBT/LGBTQ+）など性的マイノリティの人々に対して、本人の同意を得ずに、公にしていない性的指向や性自認などの秘密を暴露する行為を指します。

アウティングの定義と問題点

個人の性的指向や性自認は、非常にプライベートな情報であり、個人のアイデンティティに関わる重要な要素です。そのため、本人の了解なしに他者が暴露することは、人格権やプライバシー権の侵害にあたります。近年、アウティングによる精神的苦痛を訴える訴訟や、アウティングを防止するための法整備が進められています。

アウティングの歴史

アウティングという言葉が使われ始めたのは1980年代後半から1990年代初頭にかけてです。1990年1月29日号の『タイム』誌に掲載された記事が、一般社会に「アウティング」という言葉を広めたと考えられています。

20世紀初頭には、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の側近であったフィリップ・ツー・オイレンブルクが、皇帝の政策を批判するジャーナリストによってアウティングされるという事件が起きました。

アメリカでは、1950年代に芸能界や政界の著名人のスキャンダルを暴露するタブロイド紙が登場し、政治家などがアウティングの標的になりました。

1969年のストーンウォールの反乱以降、ゲイ解放運動が活発になり、活動家たちは積極的にカムアウトを始めました。しかし、中には他者のカムアウトを強要する動きもあり、望まないアウティングが行われることもありました。

アウティングの動機

アウティングを行う動機は様々です。雑誌『Outweek』の編集者であったガブリエル・ロテロは、アウティングを「平等化」や「明確化」と説明し、同性愛と異性愛を平等に扱うための活動であると主張しました。

また、アウティングは、LGBTの人権に反対する人物を批判するために行われることもあります。アウティングによって、その人物の偽善的な態度を暴露し、社会的な責任を問うという目的があります。

アウティングに対する擁護と批判

アウティングは、被害者の評判を損ねる行為であるという批判がある一方で、政治的に擁護され得る事例もあるという指摘もあります。イギリスの活動家ピーター・タッチェルは、「レズビアンやゲイのコミュニティは、同性愛者に脅威を押し付ける力や政策に同調する公人から自己防衛する権利がある」と述べています。

しかし、一部のLGBT人権活動家は、反ゲイの保守的な人であっても守られるべきプライバシーの権利があると主張して、アウティングを政治方策とすることに反対しています。

日本におけるアウティング

日本でも、アウティングは深刻な問題となっています。2020年東京オリンピックでは、ゲイやバイセクシュアル男性向けのマッチングアプリで、選手村に滞在する参加選手の性的指向に関する情報がSNS上で暴露されるという事件が起きました。

また、性自認や性的指向を擁護する条例を成立させた東京都杉並区の区長が、区議の性自認をSNSで本人の了承を得ずに公表するアウティング行為を行い、批判を浴びました。

2019年には、アウティングによって精神疾患を発症したとして、労災が認定される事例も出ています。

イスラム国家におけるアウティング

イスラム教圏の人物に対してのアウティングは、特に危険を伴います。スーダンやイラン、サウジアラビア、イエメン、ブルネイなどでは同性愛者が死刑となる可能性があり、アウティングは生命にかかわる場合があるためです。

まとめ

アウティングは、個人の尊厳を傷つけ、深刻な精神的苦痛を与える行為です。アウティングを防止するための法整備や、社会全体の理解を深めるための啓発活動が求められています。また、アウティングは、場合によっては生命に関わる危険な行為であることを認識する必要があります。

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