アクサク

アクサクとは

アクサク（aksak）は、主にオスマン古典音楽やトルコ、バルカン半島地域の伝統音楽において重要な位置を占める、独特なリズムシステムを指します。その名はトルコ語で「跛行（はっこう）」、「つまづき」、あるいは「激しい揺れ」といった意味を持ち、この言葉が示すように、西洋音楽の規則的な拍子構造とは異なる、特徴的なリズム感を持っています。西欧の民族音楽学者からは、しばしば「不規則拍子」や「付加拍子（additive meter）」として言及されます。

リズムの構造

アクサクのリズムは、速いテンポで演奏されることが多く、特定の音型パターンが繰り返し用いられる点に特徴があります。その根幹をなすのは、異なる長さを持つ短いリズムのまとまり、すなわち「リズミックセル」を組み合わせる構造です。例えば、2拍と3拍の組み合わせによる5拍子（2+3）、2拍、2拍、3拍を組み合わせた7拍子（2+2+3）、あるいは2拍、3拍、3拍で構成される8拍子（2+3+3）などが代表的な例です。

これらのリズミックセルを並べることで、アクサクは予測不能で推進力のある、非常に多様なリズムパターンを生み出します。長短の音符の絶妙な組み合わせから生まれる躍動感は、アクサクの大きな魅力の一つと言えるでしょう。

トルコ音楽理論における定義

トルコ音楽理論の文脈では、「アクサク」という用語がより限定的な意味で用いられることもあります。厳密には、9拍を2拍、2拍、2拍、3拍というパターンに分割したものを特に指す場合があります。これはアクサクが持つ構造的多様性の中で、ある特定の、規範的な形を示していると言えます。

広がりと応用

アクサクのリズムは、その起源であるトルコだけでなく、周辺地域の伝統音楽にも深く根付いています。特にイラン、アフガニスタン、そしてバルカン諸国の民俗音楽においては、アクサクのリズム構造がリズミカルな基盤として広く用いられています。トルコ国内では、主に民俗音楽における歌や楽器を用いた踊りの曲で頻繁に登場し、人々に親しまれています。また、いくつかの古い民謡の中にもその特徴的なリズムを見つけることができます。

西洋音楽への影響

20世紀に入ると、西洋音楽は西欧以外の文化や東ヨーロッパの民族音楽から新たなインスピレーションを積極的に取り入れるようになります。こうした潮流の中で、アクサクのリズムも西洋の作曲家たちの注目を集めました。その「不規則」でありながらも内在的な論理と強い推進力を持つ構造は、当時の作曲家たちにとって新鮮であり、自身の作品に新たな表現をもたらす可能性を秘めていました。

ハンガリーの作曲家バルトーク・ベーラやロシア出身のイーゴリ・ストラヴィンスキーといった、20世紀を代表する作曲家たちが、アクサクに影響を受けた作品を生み出しています。彼らは民族音楽のリズムや旋律を作曲技法に取り入れることで、クラシック音楽の新たな地平を切り開きました。

現代音楽にとどまらず、ポピュラー音楽においてもアクサクのリズムは使用されています。特にジャズにおいては、デイヴ・ブルーベックが作曲し、ジャズスタンダードとなった名曲「ブルー・ロンド・ア・ラ・ターク (Blue Rondo à la Turk)」がよく知られています。この曲では、8分の2+2+2+3という、アクサクの典型的な構造が中心的なリズムモチーフとして用いられ、その斬新で魅力的な響きは多くの聴衆に強い印象を与えました。

アクサクは、その「跛行」という名前に反して、音楽にユニークな躍動感と推進力を与えるリズムシステムです。オスマン古典音楽から派生し、様々な地域の伝統音楽で育まれ、さらには西洋音楽やジャズにまで影響を及ぼしたその多様性と表現力は、今日でも多くの音楽家によって探求され続けています。

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