アクト・ナチュラリー

アクト・ナチュラリー：カントリーミュージック史に残る名曲とその波乱万丈な道のり

「アクト・ナチュラリー (Act Naturally)」は、ジョニー・ラッセルとヴォーニ・モリソンによって書かれた、カントリーミュージック史上に燦然と輝く名曲です。1963年、バック・オーウェンスと彼のバックバンド、ザ・バックアローズによって録音され、瞬く間に全米カントリーチャートの頂点に駆け上がりました。その後、数々のアーティストによってカバーされ、その知名度を不動のものとしました。中でも特に有名なのは、1965年にビートルズによってカバーされたバージョンで、リンゴ・スターがリードボーカルを務めたことで、全世界にその名が知れ渡ることとなりました。

誕生秘話：ハリウッドスターの夢と現実

ミシシッピ州出身のラッセルは、1960年代初頭、カリフォルニア州フレズノを拠点に活動していました。ある日、友人の誘いでロサンゼルスでのレコーディングに参加することになります。しかし、その時は彼女とのデート中だったため、デートを中断して向かわなければなりませんでした。この時の彼女との会話、ロサンゼルス行きを「ハリウッドスターになるためだ」と冗談交じりに説明した出来事が、この曲の着想の源になったのです。

ラッセルは、その日のうちに「アクト・ナチュラリー」を書き上げました。しかし、完成後すぐに録音できたわけではありませんでした。最初に歌詞を伝えようとした歌手は、歌詞を覚えられず、自身で録音することも考えましたが、当時のプロデューサーから「映画をテーマにした曲はヒットしない」と反対され、断念。完成から録音まで実に2年の歳月が流れました。「誰も興味を持ってくれなかった」とラッセルは当時を振り返っています。

バック・オーウェンスとの出会い：運命の出会いとチャート制覇

転機は、ヴォーニ・モリソンとの出会いでした。モリソンは、カリフォルニア州ベーカーズフィールドを拠点とする歌手、バック・オーウェンスと仕事をしていました。ラッセルがモリソンに「アクト・ナチュラリー」を演奏したところ、モリソンはオーウェンスに合うと判断し、レコーディングを提案しました。こうして、ラッセルの楽曲は、モリソンとの共作として世に出ることになったのです。

オーウェンスは当初、この曲に魅力を感じていませんでした。しかし、ザ・バックアローズのメンバー、ドン・リッチがラッセルのデモテープを高く評価したことで、オーウェンスも考えを改め、レコーディングを許可しました。なんと、オーウェンスはすでに録音済みで、出版権だけが欲しかったことが後に判明しました。ラッセルは快く権利を譲り渡したと言われています。

1963年2月12日、ハリウッドのキャピトル・スタジオでレコーディングされた「アクト・ナチュラリー」は、3月11日にシングルとして発売されると、同年6月15日付の『ビルボード』誌カントリー・シングル・チャートで1位を獲得。大ヒットを記録しました。

ビートルズのカバー：リンゴ・スターの代表曲に

1965年、ビートルズはアルバム『ヘルプ!』のために「アクト・ナチュラリー」をカバーしました。リンゴ・スターがリードボーカルを務めたこのバージョンは、アメリカではシングル「イエスタデイ」のB面としてリリースされました。音楽評論家スティーヴン・トーマス・アールワインは、「リンゴの愛想の良いボーカルの理想的なショーケース」と評しています。

ビートルズのカバーは、映画『ヘルプ!』の撮影後、初めて録音された楽曲でした。当初、スターは別の曲をレコーディング予定でしたが、テイクに満足いかなかったため、「アクト・ナチュラリー」に変更されたそうです。また、この曲は、1969年のゲット・バック・セッションで「マギー・メイ」が録音されるまで、ビートルズによる最後のカバー曲でした。

ビートルズによる「アクト・ナチュラリー」は、その後もライブで演奏され続け、リンゴ・スター率いるリンゴ・スター＆ヒズ・オール・スター・バンドの定番曲として、現在に至るまで演奏され続けています。数々のライブアルバムにも収録されており、彼の代表曲の一つとなっています。

バック・オーウェンスとリンゴ・スターのデュエット：世代を超えた共演

1989年には、バック・オーウェンスとリンゴ・スターによるデュエットバージョンが発表されました。このデュエットは、カントリーミュージックとロックンロールの融合として話題を呼び、カントリー・シングル・チャートで27位を記録しました。ミュージックビデオも制作され、西部劇をモチーフとした映像が印象的です。このバージョンは、カントリーミュージック協会賞とグラミー賞にもノミネートされました。

「アクト・ナチュラリー」は、その誕生から現在に至るまで、多くの音楽ファンを魅了し続けている、まさにタイムレスな名曲と言えるでしょう。そのシンプルな歌詞とメロディー、そして多くのアーティストによるカバーによって、世代を超えて愛され続ける魅力を秘めているのです。

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