アクリジンオレンジ

アクリジンオレンジ：細胞染色における多様な用途

アクリジンオレンジは、細胞内の核酸に結合して蛍光を発する有機化合物です。そのカチオン性と細胞膜透過性により、DNAやRNAと特異的に相互作用し、蛍光顕微鏡やフローサイトメトリーを用いた細胞解析に広く利用されています。

アクリジンオレンジの特性と作用機序

アクリジンオレンジは、DNAにはインターカレーション（塩基間に挿入）によって、RNAには静電的相互作用によって結合します。結合相手によって蛍光のスペクトル特性が変化するのが大きな特徴です。DNAに結合した場合は緑色の蛍光（励起波長502nm、発光波長525nm）、RNAに結合した場合は赤色の蛍光（励起波長460nm、発光波長650nm）を示します。この蛍光色の違いを利用して、細胞の種類や核酸の状態を識別することができます。さらに、アクリジンオレンジは酸性環境に安定であるため、リソソームなどの酸性オルガネラにも蓄積し、蛍光観察が可能です。

アクリジンオレンジの調製

アクリジンオレンジは、1,3-ジアミノベンゼンとベンズアルデヒド誘導体の縮合反応によって合成されます。具体的には、ジメチルアミノベンズアルデヒドとN,N-ジメチル-1,3-ジアミノベンゼン、あるいは3,6-アクリジンジアミンを原料として化学合成が行われます。

アクリジンオレンジの歴史

アクリジンオレンジは、19世紀後半に、石炭乾留から得られたアクリジンを原料として合成されました。その後、20世紀中頃には、土壌や水中の微生物の計数法として用いられるようになり、アクリジンオレンジ直接計数法(AODC)や直接落射蛍光フィルター技術(DEFT)といった手法が確立されました。近年では、臨床検査において血液培養陽性検体の迅速診断などにも活用されています。

アクリジンオレンジの応用

アクリジンオレンジは、多様な分野で応用されています。

微生物検出: 蛍光顕微鏡を用いた微生物の迅速検出。グラム染色に比べて簡便で迅速な検出が可能です。細菌はオレンジ色、真核細胞は緑色に染色されるため、容易に識別できます。食品や水質検査、臨床検査など幅広い用途があります。
細胞周期解析: DNAとRNAの染色パターンから細胞周期を解析できます。DNA含有量の測定や、アポトーシス細胞の検出にも用いられます。
精子クロマチン評価: 精子細胞のDNA損傷の評価に用いられます。DNAの損傷により蛍光強度が変化します。
リソソームの観察: アクリジンオレンジは酸性オルガネラであるリソソームに蓄積し、リソソームの機能や動態を研究するのに利用できます。リソソームのpH変化に伴い蛍光の色が変化します。
* フローサイトメトリー: 細胞集団中のDNA含有量やRNA含有量を測定するのに利用できます。

アクリジンオレンジを用いた細胞の識別

アクリジンオレンジは、pHや結合する核酸の種類に応じて蛍光特性が変化します。pH3.5では青色光で励起され、ヒト細胞を緑色、原核細胞をオレンジ色に染色します。この性質を利用して、細胞の種類を識別することができます。また、DNAとRNAへの結合の差異により、細胞周期や細胞の状態を推定することもできます。

まとめ

アクリジンオレンジは、その簡便性、迅速性、多様な応用性から、細胞生物学、微生物学、臨床検査など様々な分野で重要な役割を果たしています。今後も、新たな応用が期待される蛍光色素です。

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