アグネス・フォン・ポワトゥー

アグネス・フォン・ポワトゥー：激動の時代を生き抜いた皇后

アグネス・フォン・ポワトゥー（1025年頃 - 1077年12月14日）は、11世紀の神聖ローマ帝国の皇后であり、バイエルン女公でもありました。皇帝ハインリヒ3世の妃として、また、後に皇帝となるハインリヒ4世の母として、その生涯は政治的、宗教的な転換期と深く関わっています。

生い立ちと結婚

アグネスは、アキテーヌ公ギヨーム5世と、その3番目の妃であるブルゴーニュ伯オット＝ギヨームの娘アニェスの間に生まれました。幼少期はアキテーヌや外叔父の元で過ごし、ブザンソンで叔父と生活していた頃、皇帝ハインリヒ3世に見初められ、1043年に結婚しました。

1050年には長男ハインリヒ（後のハインリヒ4世）が誕生。クリュニー修道院長ユーグが洗礼の代父を務めましたが、実はユーグをハインリヒ3世に引き合わせたのはアグネスでした。ユーグは後に、カノッサの屈辱において、ハインリヒ4世と教皇グレゴリウス7世の仲介役を務めることになります。

1055年、次男コンラートの死後、アグネスはバイエルン公位を与えられました。

摂政として

1056年、ハインリヒ3世が急逝すると、わずか6歳のハインリヒ4世の摂政として、アグネスは帝国の舵取りを担うことになります。教皇ウィクトル2世の庇護のもと、彼女は諸侯との関係改善に努め、前ロートリンゲン公ゴットフリート3世にロートリンゲンとトスカーナの領有権を与えたり、フランドル伯ボードゥアン5世父子にエノー伯領の領有を認めたりしました。また、有能な聖職者を司教や修道院長に任命するなど、教会の人事にも積極的に関与しました。

しかし、宮廷内でミニステリアーレ（官僚）を重用したことが、有力貴族たちの反感を買い、政治的な基盤を揺るがすことになります。貴族たちの支持を得るため、アグネスは1057年にルドルフ・フォン・ラインフェルデンにシュヴァーベン公位を与えましたが、ハインリヒ3世からシュヴァーベン公位を約束されていたベルトルト・フォン・ツェーリンゲンが反発。アグネスは彼にケルンテン公位を与えることで、事態を収拾しようとしました。さらに、1061年には自身の持つバイエルン公位をオットー・フォン・ノルトハイムに、空位となったケルンテン公位をベルトルト・フォン・ツェーリンゲンに与えました。しかし、これらの公たちは後にハインリヒ4世と対立することになるのです。

引退と晩年

1061年にアレクサンデル2世が教皇に即位すると、ドイツ宮廷が推す対立教皇ホノリウス2世との間で教会が分裂状態に陥り、アグネスは政治への意欲を失っていきます。宮廷内での権力争いが激化する中、1062年4月、ケルン大司教アンノ2世がハインリヒ4世を拉致するという事件が起こり、アグネスはこれを機に政界から引退し、信仰生活に入ることを決意します。

ピエモンテのフルツァリア修道院で修道女となった後、ローマへ旅立ったアグネス。政治の実権はアンノ2世が握ることになりますが、数年後には彼も失脚し、ハンブルク大司教アーダルベルトが台頭します。1065年にハインリヒ4世が親政を開始した後も、アーダルベルトが実権を握っていましたが、翌年には追放され、再びアンノ2世が権力を掌握しました。

1066年末、アグネスは教皇アレクサンデル2世からのローマ遠征の要請をハインリヒ4世に伝えるためドイツを訪問し、結果的にハインリヒはローマ遠征を中止しました。その後、ハインリヒ4世は本格的に親政を開始しますが、1073年に教皇位についたグレゴリウス7世との関係が悪化。ザクセン貴族をはじめとする諸侯との対立も深まる中、1077年12月にアグネスはローマで息を引き取りました。

子女

ハインリヒ3世との間に、多くの子をもうけました。

アーデルハイト：ガンダースハイム修道院長
ギーゼラ
マティルデ：シュヴァーベン大公・対立ローマ王ルドルフ・フォン・ラインフェルデンと結婚
ハインリヒ4世：ローマ王、神聖ローマ皇帝
コンラート2世：バイエルン公
ユーディト：ハンガリー王シャラモン、後にポーランド公ヴワディスワフ1世ヘルマンと結婚

アグネス・フォン・ポワトゥーは、激動の時代にあって、皇后、摂政、そして母として、その時代を生き抜いた女性でした。信仰深く、教養にも優れていた彼女の生涯は、中世ヨーロッパの歴史を語る上で欠かすことのできない重要な一部です。

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