アゲイン (重松清)

重松清の小説『アゲイン』は、高校野球に青春を捧げた元球児たちが、大人になって再びグラウンドに立つまでを描いた人間ドラマです。

物語は、かつて甲子園を目指した高校球児だった坂町晴彦のもとへ、思わぬ訪問者が現れることから始まります。彼女は、高校時代のチームメイトであった松川典夫の娘、戸沢美枝でした。東日本大震災で父親を亡くした美枝は、遺品の中から、仲間たちに宛てて書かれながらも一度も投函されなかった大量の年賀状を見つけ出します。その年賀状を手がかりに、美枝は父親の過去を知るべく、かつてのチームメイトたちを訪ね歩いていたのです。年賀状には、毎年変わらず「一球入魂」の文字が記されていました。

美枝との出会いは、晴彦にとって封印していた高校時代の記憶を呼び覚まします。特に、明るいムードメーカーだった松川が起こした、チームの甲子園出場を阻むことになった暴力事件。そして、その出来事以降、彼らが野球から離れていった苦い経験です。美枝は、自身がボランティアとして関わっている「マスターズ甲子園」という、高校野球OBによる大会への参加を晴彦に勧めます。最初は過去のわだかまりから乗り気になれない晴彦でしたが、美枝のひたむきさや、かつての仲間たちとの再会を経て、再び白球を追うことを決意します。

物語は、マスターズ甲子園を目指す中で、それぞれの人生を歩んできた元球児たちが抱える現実や葛藤を描き出します。リストラや家族との不和、過去のトラウマなど、彼らが直面する問題は多岐にわたります。そこに、かつてのチームメイトで、ある事情から姿を消した元マネージャーの立原裕子や、プロを目指しながらも挫折した元エースの高橋直之といった主要人物が加わり、それぞれの視点から物語が紡がれていきます。

この小説は、『小説すばる』誌で2012年から2016年にかけて連載されました。そして、小説の連載開始とほぼ同時期に、映画化の企画も進行しました。映画版は『アゲイン 28年目の甲子園』と題され、2015年1月に公開されています。監督・脚本は大森寿美男氏、主演は坂町晴彦役を演じた中井貴一氏が務めました。映画の制作は小説の執筆と並行して進められ、監督自身による書き下ろしノベライズ版も出版されています。

映画は、主人公たちが再び野球に向き合う姿を丁寧に描き、クライマックスでは実際に阪神甲子園球場での撮影も行われました。主題歌には、監督がファンであった浜田省吾氏の楽曲「夢のつづき」が使用されました。この主題歌の選定には、浜田氏が当初提供した別の曲から、完成間際に書き下ろしの新曲に変更されたというエピソードも残っています。

『アゲイン』は、単なる野球物語ではなく、過ぎ去った青春の傷と向き合い、失われた友情や家族との絆を再構築しようとする中年世代のリアルな姿を描き出す作品です。震災という大きな出来事が、登場人物たちの止まっていた時間を再び動かすきっかけとなり、彼らが未来へ向かって一歩を踏み出すまでの軌跡が感動的に描かれています。小説と映画、それぞれのアプローチで、再生と希望のメッセージを伝える作品と言えるでしょう。

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