アシカ作戦

アシカ作戦（Operation Sea Lion）

アシカ作戦は、第二次世界大戦中にナチスドイツが立案した、イギリス本土への軍事侵攻の計画である。作戦名はドイツ語では「Unternehmen Seelöwe」と呼ばれ、英語では「Operation Sea Lion」と訳される。この計画は1940年に進められたが、最終的には実行されることがなかった。

背景

1939年9月の開戦前、ドイツはポーランドやフランスに対する侵攻計画を持っていた一方で、イギリスに対する具体的な戦略は弱いものであった。1940年5月、ドイツ軍はフランスを攻めて優勢を確立し、英仏連合軍を分断。イギリス国内では、フランスでの戦争が敗北に近いとの見方が広まっていった。この状況下、イギリス外相のハリファックス卿は内閣に和平交渉を提案するが、新たに就任した首相チャーチルは強硬派であり、交渉案は最終的に葬られた。

チャーチルは「我々はビーチで戦う」との演説を行い、イギリスの抗戦姿勢を国内外に示す。その後、フランスが休戦に入ると、ドイツは対英戦略を見直し、上陸作戦を含む新たな戦略を検討することになった。

作戦計画への進展

1940年6月以降、ドイツの陸軍と海軍は、英本土上陸作戦について再検討を始め、いくつかの案を具体化。陸軍の提案では、イギリス南部に幅広く上陸する計画が提出された一方で、海軍は輸送能力や悪天候の影響を考慮し、限定的な上陸を提唱した。6月末にヒトラーは上陸作戦の具体的な計画を立案するよう命じ、7月中旬には海軍と陸軍が協力のもとで案がまとまった。

作戦は1940年9月中頃の実施を想定し、「Sデー」と呼ばれる上陸日を設けた。海軍は事前の掃海や防御用機雷の設置を計画し、陸軍部隊は8か所にわたっての大規模な上陸を目指していた。重装備の早期上陸部隊が準備され、空軍にとっても、充分な支援を得ることが求められた。

英国の対策

イギリス側では、ドイツ軍の上陸に対する懐疑的な見方が主流であったが、チャーチル首相の強い指導のもと、郷土防衛隊が結成される。国防を強化するために、39箇所の防衛拠点が構築され、レーダーを利用した早期警戒システムが導入された。ドイツの動向を察知したイギリスは、注意深く対策を進めたが、防衛の整備は時間がかかり、進捗は遅かった。

航空戦の展開

1940年6月末、ドイツは航空戦を開始。英空軍とドイツ空軍の間で激しい戦闘が繰り広げられた。最初は順調に思われたが、徐々にイギリス側の防空体制やレーダー網の効果が顕在化し、ドイツの軍事行動は難航し始めた。8月末には、ドイツの航空優位が確保できない状況が続き、上陸作戦の実施が危ぶまれる事態となった。

延期決定

9月に入ると、ドイツはアシカ作戦の実施準備が整いつつあったものの、空軍の状況報告が良くなく、ヒトラーは17日に作戦を無期限延期する指示を出した。アシカ作戦が実施されることはなく、大軍はその後も英仏海峡沿いに駐屯し続けた。

1941年には、やがて重点がソ連への侵攻に移ることとなり、アシカ作戦の実施可能性は完全に消滅した。

戦後の評価

1974年に、サンドハースト王立陸軍士官学校で行われた模擬演習では、ドイツ軍が上陸に成功する条件での評価が行われたが、実際の戦局やイギリス軍の状況を過大評価しているとの指摘がある。これにより、イギリスの陸軍が持つ防衛の脆弱性が浮き彫りとなり、アシカ作戦の実現可能性を再考させるきっかけとなった。

結論

アシカ作戦は、ドイツの戦略において重要な位置を占めた計画であったが、不断の状況変化や英軍の努力、実際の航空戦の結果によって実行を逃れることとなった。このような経過は、戦争の複雑さと、戦略の再考の重要性を教えるものである。

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