アシスタント・エンジニア

アシスタント・エンジニア（Assistant Engineer）

アシスタント・エンジニアは、CDやレコード、DVDなどの音楽メディアに記録される音源の制作現場において、中心的な役割を担うレコーディング・エンジニアを技術面で支える専門職です。主に録音や音響調整を担当するレコーディング・エンジニアの指示に基づき、マイクロフォンや録音機材などのセットアップ、さらにはMTR（マルチトラックレコーダー）やDAW（デジタルオーディオワークステーション）のオペレーションなど、多岐にわたる業務を遂行します。

概要

アシスタント・エンジニアの業務内容は、所属するスタジオによって細部が異なる場合もありますが、基本的には共通しており、レコーディング・スタジオでの音源制作作業に深く関わります。彼らの役割は、メインとなるレコーディング・エンジニアの作業を包括的にサポートすることにあります。具体的には、スタジオに備え付けられた楽器に対する指定のマイクやプリアンプ、その他の周辺機器の設置や結線を行います。録音作業が開始されてからは、MTRやDAWを操作し、エンジニアやミュージシャンがスムーズに作業を進められるよう、技術的な側面から支援します。

多くの場合、レコーディング・スタジオを主な勤務先とするため、そのスタジオ固有の音響特性、オーディオ回線、電源環境、そして常設されている機材一式の特性を深く理解しています。この知識を活かし、外部からセッションのために訪れるエンジニアやプロデューサーに対し、音作りや作業効率に関する具体的なアドバイスや提案を行うことも求められます。アシスタント・エンジニアは、スタジオ設備を熟知し、セッションの進行を円滑にするための技術を提供することで、レコーディング・セッションにとって欠かせない存在となっています。

主な作業内容

アシスタント・エンジニアの業務は、セッションの進行段階に応じて多岐にわたります。

スタジオ・セットアップ

セッション開始に先立ち、スタジオ内の機材を準備する作業を行います。これは通常、セッション開始の1～2時間前、大規模な編成の場合は前日の夜から開始されることもあります。セットアップには、マイク、マイクスタンド、ケーブル、遮蔽板、キューボックスなどの設置と結線が含まれます。マイク回線はミキシング・コンソールに立ち上げられ、全ての機材が正しく結線された後、回線チェックを実施します。これにより、設定が計画通りであるか、ケーブルの断線や機材の不具合がないかなどを確認し、セッションが円滑に始められる状態を整えます。

レコーディング

実際の録音作業中、アシスタント・エンジニアはレコーディング・エンジニアの指示に従い、コンソールの設定変更やMTR/DAWのオペレーションを行います。DAWが登場して以降、その作業内容は以前にも増して複雑化、多様化しており、音響機器だけでなく、DAWシステムの基盤となるコンピューターに関する深い知識も求められるようになりました。従来の録音やパンチインといったリアルタイムでの作業に加え、DAW上でのオーディオ・リージョン編集や音質修正なども担当するため、場合によってはコンピューター・プログラマーに近いスキルが必要とされることもあります。また、技術的な作業だけでなく、ミュージシャンや他のスタッフからの要望に対し、機材操作以外のコミュニケーション面でも適切に対応し、セッション全体の雰囲気を良好に保つことも重要な役割です。これらの多様な業務をこなすため、セッション中は最も多くの作業量をこなすスタッフの一人となることも少なくありません。

録音セッションの終了時、または進行中に、記録された音源をメディア（テープやハードディスクなど）に整理し、確認検聴する作業も行います。DAW環境では、外部メディアからのデータ取り込みや、複数のセッションファイルの統合など、コンピューター画面上での作業がセッション後数時間に及ぶこともあり、業務内容はアナログMTRを使用していた時代に比べ増加傾向にあります。

ミキシング

ミキシング作業時、レコーディング時ほどの作業量は多くありませんが、セッション開始前の機材およびコンソールのセットアップはレコーディング前と同様に行います。ミキシング中もMTRやDAWのオペレーションが必要な場合がありますが、ミキシング・コンソールに搭載されたコンピューター・オートメーションを使用する際には、その操作を補助することもあります。ミキシングが完了したら、最終的なミックス音源をマスターメディアに記録・固定化する必要があります。そのため、マスターレコーダーのセットアップや、オシレーター信号を用いた最終的なレベル調整などを行い、重要なマスター素材を安全かつ正確に作成し、納品できる状態に準備します。

セッション終了後

セッションの内容によって片付けの作業は若干異なります。レコーディングやオーバーダブのセッション後には、使用したマイクを含む全ての機材を撤収し、スタジオ内およびコントロールルームを、スタジオが定めるデフォルトの初期状態に戻します。この際、常設機材と持ち込み機材が混ざらないよう、慎重な確認を行います。ミキシング・セッション終了後は、完成したマスター素材の必要部数や納品先を確認し、プロデューサーやメインエンジニアにメディアを引き渡して作業完了となります。その後、レコーディング・セッションと同様に機材の片付けを行います。

一般的な雇用形態

日本国内におけるアシスタント・エンジニアの働き方はいくつか存在します。古くから最も一般的なのは、レコーディング・スタジオや音楽制作会社に社員として直接雇用される形態です。また、1970年代後半からは、エンジニアの組織や派遣会社に所属し、契約関係にあるスタジオへ必要に応じて派遣される形態も増加しています。

この職に就くまでの道のりとしては、音響系の専門学校や大学で専門知識を学んだ後、レコーディング・スタジオやレコードメーカー、音楽制作会社などに入社し、アシスタント業務の候補生として見習いからキャリアをスタートさせるケースが多く見られます。

アシスタント・エンジニアは、高度な技術知識と機材操作能力に加え、円滑な人間関係を築くコミュニケーション能力も求められる、音楽制作の現場を支える重要な存在です。

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