アジア動向年報

アジア動向年報（あじあどうこうねんぽう）

『アジア動向年報』は、公益財団法人アジア経済研究所が毎年発行している年鑑です。これは、対象となるアジア各国の前年における政治、経済、社会の動向を包括的に取りまとめたもので、特定の国・地域に関する最新かつ詳細な情報を得るための貴重な資料となっています。

対象地域と内容

この年報が扱う対象地域は広範に及び、極東ロシアを含む東アジア、東南アジア、南アジアのほとんどの国・地域をカバーしています。主権国家のみならず、中国の特別行政区である香港や、公式な国名表記ではないものの事実上他国と同様に扱われる台湾も対象に含んでいます。過去には、中東地域も一時的に含め、『アジア中東動向年報』という名称で刊行されていた時期もあります。

各国の項目では、基本的な地理情報を示す地図、その年の出来事を追った詳細な日誌、現在の政府組織図、主要な閣僚や要人リスト、各種経済統計などが掲載されています。本文の中心となるのは、政治、経済、対外関係といった主要なテーマに関する分析論文で、一国につき概ね10,000字を超える、深い洞察に基づいた記述が特徴です。また、個別の国・地域情勢だけでなく、アジア全体に共通する重要なトピックや課題に焦点を当てた分析も収録されています。

独自性と歴史

この年報の最大の特長は、その網羅性と詳細な分析にあります。海外にはCIAの『ワールド・ファクトブック』のような類似資料も存在しますが、それらは主にデータや概括的な情報の提供にとどまり、各国の情勢に関する深度ある分析は含まれていません。『アジア動向年報』のように、体系的に整理された統計データ、綿密な日誌、そして専門家による質の高い分析論文を一つの媒体で提供している資料は、アジア地域に特化しているとはいえ、国内外を見渡しても他に類を見ない極めて独自性の高いものです。35年以上にわたり、決まった体裁でデータや情報を継続的に収集・蓄積している点も、その価値を高めています。

発行元は現在のアジア経済研究所ですが、研究所が現在の幕張地区に移転する以前は、その外郭団体であったアジア経済出版会が発行を担っていました。

読者層と利用

『アジア動向年報』は、幅広い層の読者を対象としています。大学でアジア研究を始める学生や、アジアに関心を持つ一般社会人の入門者にとって、基礎知識や現代史を学ぶ上での良い出発点となります。また、企業や官公庁で国際業務に携わる担当者、さらには海外情勢や社会科学の専門家でありながら特定の国については詳しくない人々が、現状を把握し直すために利用することも多いです。ただし、この年報は学術的な一次資料や研究書そのものではないため、学術論文等で主要な情報源として引用することは、本来は避けるべき行為とされています。

入手方法と現状

この年報は、国内の主要な大学図書館で常備されており、アジア経済研究所の賛助会員である企業や中央官庁にも定期的に納入されています。しかし、年間の発行部数は1,000部をわずかに超える程度であり、一般的な書籍としては決して多くありません。書店でも販売されていますが、定価が6,000円以上と高価であるため、取り扱いは一部の大型書店、中国・アジア専門書店、オンライン書店などに限定される傾向があります。現在では、全ページが電子化され、『アジア動向データベース』としてウェブサイト上で公開されていますが、書籍版の販売促進を考慮し、最新の5年分については無償での公開は行われていません。

執筆体制と課題

執筆は、アジア経済研究所に所属する研究員の他、外部の大学教授など、各国の専門家が担当しています。しかし、一つの国・地域の政治と経済の両方を一人の執筆者が担当するケースが多く見られます。このような体制がとられている背景には、主に二つの理由が挙げられます。

第一に、アジア経済研究所が掲げる地域研究の理念です。対象となる発展途上国の多くは、政治や経済システムが先進国ほど分化しておらず、学際的な視点からの統合的な理解が必要であるという考え方があります。そのため、研究者が政治と経済の両方に通じていることが前提とされる傾向があります。しかし、経済発展が進んだ一部の国では、情報量が飛躍的に増大しており、先進国を扱うのと同等の精密な分析が求められつつあります。このため、読者は執筆者が政治と経済のどちらを主たる専門としているかを意識すると、内容理解に役立つでしょう。

第二の理由は、組織的な人手不足です。対象国ごとに担当研究者を確保すること自体が困難であり、アジア経済研究所全体の定員減少に伴い、研究者数も減少しています。内部の研究者だけでは対応できない国については、外部の大学教授などへ執筆を依頼することが常態化しています。さらに、編集部門の人員も不足しており、研究者が編集作業の一部を兼務する状況も見られます。このような体制下で、一つの国に複数の執筆者が関わると原稿管理が複雑化し、事務作業の負担が増大します。独立行政法人に求められる効率化や人件費削減が進められる現状を鑑みると、こうした人手不足の問題が早期に解決される見通しは立ちにくいと言えます。

類似資料

• - ザ・ワールド・ファクトブック
• - 中国年鑑（中国研究所編集、創土社発行）
• - 中国動向（共同通信社編集・発行）

関連項目

• - アジア経済研究所

外部リンク

• - アジア動向年報
• - アジア政経学会Webサイトにて過去の日誌が検索可能。具体的なURLはinputに無いため一般的な説明とする'>アジア動向年報「重要日誌」

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