アスカ@未来系

アスカ＠未来系

『アスカ＠未来系』は、漫画家・島本和彦によって描かれた日本の学園漫画作品です。『月刊サンデージェネックス』（小学館刊）にて、2009年2月号から2010年8月号にかけて連載されました。これまでの島本作品で多く見られた熱血路線に、SF的な要素と青春群像劇を融合させた意欲作となっています。

物語のあらすじ

物語の舞台は、名門として知られる私立青藤学園の付属中学校。平和な日常が流れる中学2年A組に、一人の少年が転校してくるところから物語は始まります。その少年こそが、主人公の大門アスカです。転校初日、アスカはクラスメイトたちの前で衝撃の自己紹介を放ちます。「未来からやってきました」──この一言が、学園、そして彼を取り巻く人々の日常を大きく揺り動かしていくことになります。

アスカの隣の席に座る上代愛果は、彼の発言を単なる「未来人キャラ」のボケだと受け止め、正直言って面白くない、友達ができないかもしれない、と厳しい言葉を投げかけます。また、アスカの前の席に座る長ヶ部は、関西弁で喋り、お笑いには一家言ある人物。彼はアスカの「未来人ボケ」が理解できていないと突っ込みますが、アスカはあくまで未来人設定を貫き通します。

長ヶ部は、密かに想いを寄せる愛果をデートに誘うため、偶然手に入れた映画試写会のチケットを利用しようとします。彼はアスカに対し、自分と愛果が観に行く映画の内容を未来人の力で当ててみろ、というゲームを提案。アスカの未来人設定を、自身の恋愛成就のための口実にしてしまうのです。

長ヶ部と愛果が映画デートから戻り、アスカと落ち合って未来人に関する会話をしていると、その内容を聞いていた巨漢の生徒、オオトモが険しい表情で彼らに近づいてきます。このオオトモもまた、「未来人」と呼ばれる特別な存在であり、アスカたちの会話が、彼の秘めた過去と現在に影響を与えることになります。

登場人物

未来人

「未来人」とは、特殊なエネルギーである「時空圧エネルギー」を用いて、多くの異なる未来から現代へと渡ってきた人々を指します。時空圧エネルギーの影響により、彼らの外見は2030年時点の年齢とは異なる姿になっているのが特徴です。

大門アスカ: 本作の主人公。小柄な黒髪の中学2年生。「未来から来た」と公言し、物語の中心となります。2030年の未来では、大規模な実験施設の爆発事故に巻き込まれ、全身火傷を負うも、手術後に傷跡一つない健康な体となって目覚めたという過去を持ちます。その手術チームには、成長した愛果がいたとされています。
ソガ: アスカと同じ日に青藤学園中学2年に転校してきた少年。アスカとは別のクラス。中学生男子としては小柄な体格ながら、上代愛果に対して強い恨みのような感情を抱いており、彼女を見つけると厳しい視線を向け続けます。愛果の身長が高いことも気に入らないようです。未来へ帰還した後は、南米での復興作業に従事していました。
オオトモ: スキンヘッドの巨漢。彼もまた未来人であり、気がつくと約20年前に飛ばされ、現代社会への適応に苦労を重ねてきました。自身が未来人であることを明かすことに躊躇いを感じています。元の未来環境が劣悪だったようで、現代に留まり平穏な生活を送ることを望んでいます。時空圧エネルギーを使えますが、発揮できる力は軽いものに限られます。自分と同じ境遇の未来人と出会った経験がなかったため、アスカたちの会話を聞いて彼らも未来人ではないかと疑い、近づいていきます。一度は時空圧エネルギーによる攻撃を受け姿を消しますが、翌日再び現れ、愛果の強力な前蹴りによって倒されます。アスカに介抱された際に、自称未来人が集まる「TRN未来系会議室」という掲示板の存在を知らされます。この掲示板に「オオトモ」名義で投稿がある人物が、彼と同一かは不明です。掲示板のオオトモはアスカに強い不信感を抱き、その投稿が掲示板の炎上を招きます。
マサカド: アスカと同じ日に転校してきた一人。犬好きで、3頭のドーベルマンを飼っています。未来へ帰還後は、アメリカでの復興作業に携わっていました。
ホウジョウ: TRN未来系会議室の住民の一人。過激な言動が多い掲示板メンバーを利用し、自身の思惑通りに議論を誘導しようと画策します。2030年では、時空圧エネルギーを発見した科学者である大門マサトの助手でしたが、その力に魅せられ、マサトに危害を加えたとされています。
ムサシボウ: ホウジョウの側近的な存在。暴走しがちなホウジョウを止めようと奔走します。

現代の人々

上代愛果（かみしろ まなか）: アスカと同じクラスの女子生徒。中学2年としては際立って背が高く、巨漢のオオトモを一撃で倒すほどの強烈な前蹴りを繰り出す実力の持ち主です。2030年の未来では、時空圧エネルギーの研究に携わる科学者であり、時空圧エネルギーの暴走という危機的な状況を、アスカに託した存在です。
長ヶ部（おさかべ）: アスカと同じクラスで、アスカの前の席に座る男子生徒。眼鏡をかけ、中学生としては背が高い方です。関西弁を使い、お笑いに非常に詳しい。有名進学校である青藤学園付属中学で学年3位の成績を収めるほどの高い学力を持っています。右隣の席の愛果に恋心を抱いており、あの手この手で彼女の気を引こうとします。転校初日から「未来人ボケ」を連発するアスカに対し、お笑い好きとして強いツッコミ願望に駆られます。
大門マサト: 中学校に7回生として在籍している異色の生徒。4回留年を繰り返していますが、これはその優秀さゆえとされています。作中にはこの彼を含め、「アスカの父親」「時空圧エネルギーを発見した科学者」という同名の大門マサトが合計3人登場しますが、それぞれの関係性は不明です。

団体・組織・用語

私立青藤学園付属中学: 作中で多くの登場人物が通う、私立の有名進学校の付属中学。大量の転校生が一度に編入してくるという珍しい出来事が起こります。
TRN未来系会議室: 自称「未来人」たちが集まるインターネット上の掲示板。メンバー登録とログイン時の本人確認パスワードが必要。住民は過激な傾向があり、非常に炎上しやすい場となっています。オフ会などはまだ開催されておらず、メンバー間の直接的な接触はないようです。アスカもこの掲示板の住民の一人です。掲示板の日付設定に謎があり、青藤学園の位置する北国のためか夏休みが短いのか、あるいはサーバー時間の操作か、アスカが転校した日の翌日が8月27日となっています。また、掲示板の看板には「SINCE 2029.07.10」と記載があります。
未来人: 未来から現代へとやってきた人々の総称。
未来系: TRN未来系会議室の住民たちが、20年後の未来から時空圧エネルギーを使って現代に来た人々を便宜上呼ぶ名称。コミックスの表紙や掲示板名にもこの言葉が用いられています。
時空圧エネルギー: 自身がいる時間より後の時間を圧縮することで、様々な事を一瞬で可能にする特殊なエネルギー。ただし、これは使用者が本来時間をかければ到達可能な結果に限られます。このエネルギーを使うと、使用者は実時間で努力した時間に相当する分だけ未来へと飛ばされるという特性があります。可能なことは使用者の現在の能力の範囲内であり、不器用な人物が使っても、折り紙の鶴は歪んだ仕上がりになります。しかし、一時的な身体能力向上や、自然回復では残るはずの傷跡を完全に治癒する自己修復、他人の能力を借りたり、他者の怪我を治癒したりといった、時間圧縮だけでは説明しきれない現象も確認されています。
時空間の穴: 時空圧エネルギー使用時に発生する時空の歪み。マサカドが連れていたドーベルマン3頭が吸い込まれた理由など、不明な点も多いです。
時空圧発生メカニズム: 時空圧エネルギーを使用するためのシステム。人間の体全体に文様として刻み込まれており、特別な道具なしにエネルギーを使うことを可能にします。通常、時空圧エネルギー使用者は未来に飛ばされますが、このシステムを用いることでその「ツケ」を一時的に後回しにでき、現代に留まることが可能になります。ただし、これはあくまで猶予であり、システムが正常なら問題ありませんが、破壊されると溜まっていたツケが一気に精算され、即座に未来へと移動することになります。ただし、1巻でこのメカニズムを破壊された人物たちは、破壊された瞬間に20年後の未来へ移動すると意識しています。
大門マサト: 作中には、アスカの父、時空圧エネルギーを発見した科学者、そして現代の中学生という、同名異人の大門マサトが3人登場します。それぞれの関係性は明かされていません。

作品の背景と制作秘話

本作連載に先立ち、『月刊サンデージェネックス』のWebサイトでは、メディアミックス企画として「TRN未来系会議室」が開設されました。これは作中に登場する掲示板を模したプロモーションサイトであり、連載当初は作中のやり取りや単行本1巻の宣伝などが書き込まれていました。

連載開始前、島本和彦氏は『新・吼えよペン』の長期連載を終えたばかりでした。それまでの島本漫画は、根性や熱血にパロディを加え、その場の勢いを重視して描くスタイルで知られていましたが、あるファンレターをきっかけに、テンションを抑えつつ熱さを表現する手法に気づいたと、STVラジオのポッドキャストなどで語っています。『新・吼えよペン』終了前にこの手法を試したところ周囲の評価が良かったため、本作で取り入れることにしたようです。また、単行本1巻の巻末やブログでは、普段は先の展開をあまり考えずに描くスタイルながら、本作では一度じっくり構想を練って描いてみようと思ったこと、長期休暇が取れたことで細かい設定を詰められたことなどを述べています。2009年のNHKBS『マンガノゲンバ』での特集では、『燃えよペン』の主人公「炎尾燃」を描き続けてきた反動もあり、別の作品を描きたい、特に自身が一番やりたかった「ヒーローもの」を描きたいという気持ちが強くなったと語っています。これまでは既存作品のパロディや人間関係を借用したヒーローものが多かったため、そういったものに頼らない独自のヒーロー像を描きたかったようです。また、これまでの作品では中年男性が多く登場しましたが、今回は登場人物の年齢層を大きく下げ、少年特有の可愛らしさも残る中学生を主人公に据えたことも語っています。

連載開始当初、島本氏はブログで意図的に最初はテンションを抑え、徐々に作品の熱を高めていく手法を取ることを示唆していました。しかし、連載開始から2ヶ月が経過した頃、月刊誌としては比較的穏やかな展開であったため、掲載誌の編集長が北海道の島本氏のもとを訪れ、より派手なシーンの追加を要望したというエピソードがあります。島本氏は自身の構想を説明し、これから盛り上がっていくと伝え、編集長の理解を得たとのことです。

単行本1巻の発売に際しては、『月刊サンデージェネックス』HPの編集者日記で、大幅な加筆修正が加えられ、箇所によっては新しい話になっていると述べられました。島本氏も自身のブログで、単行本で話を繋げた際に前後の熱量の違いが気になり修正を加えたこと、この修正が作品にとって良い結果となるか不安を感じていることを明かしています。

書誌情報

島本和彦 『アスカ@未来系』 小学館〈サンデーGXコミックス〉、全3巻完結。

1. 2009年7月22日初版発行、ISBN 978-4-09-157182-3
2. ISBN 978-4-09-157198-4
3. ISBN 978-4-09-157229-5

外部リンク

小学館コミック - 小学館による作品紹介
* 島本の感想文 - 本人による公式ブログ

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