アゾスピリルム属

アゾスピリルム属

アゾスピリルム属（Azospirillum）は、ロドスピリルム科に分類される細菌グループです。その細胞形態は特徴的ならせん状を呈しており、「らせん菌」と呼ばれます。グラム染色で陰性を示し、増殖や生存に酸素を必須とする好気性細菌です。また、環境が悪化しても耐久性の高い芽胞を形成しない性質を持ちます。

形態と運動性

アゾスピリルム属の細菌細胞はらせん形をしています。多くは細胞の片端に位置する極鞭毛を持つことで水中を遊泳することができますが、生息環境や条件によっては運動性を示さない場合もあります。

生理機能と代謝

本属の最も重要な生理機能は、大気中の窒素ガス（N₂）を植物が利用できるアンモニア（NH₃）に変換する「窒素固定」能力です。この反応はニトロゲナーゼという酵素によって触媒されます。

栄養源としては、グルコースやフルクトースといった単糖類を代謝してエネルギーを得ますが、スクロースやラクトースのような二糖類を利用する能力は持っていません。生化学的な活性としては、オキシダーゼ試験およびカタラーゼ試験で陽性を示します。

生態と植物との共生

アゾスピリルム属は主に土壌環境に生息し、特に植物の根圏（根の周囲の土壌）に多く見られます。多くのマメ科植物が根に根粒を形成して窒素固定細菌と共生するのとは異なり、アゾスピリルム属は植物体に根粒を形成することはありません。

しかし、アゾスピリルム属は植物の根の表面や内部に定着し、植物と密接な共生関係を築きます。細菌は自身が固定した窒素を植物に供給し、植物は細菌に光合成産物などの栄養を提供します。この相互作用により、植物は窒素栄養を効率的に獲得し、生育が促進されます。イネ科作物など根粒を形成しない植物の生育促進における役割が注目されています。

分類と遺伝的特徴

アゾスピリルム属の基準種は、アゾスピリルム・リポフェルム（Azospirillum lipoferum）です。ゲノムDNAに含まれるグアニン（G）とシトシン（C）の合計が全塩基数に占める割合（GC含量）は、概ね69%から71%の範囲にあります。

属名『アゾスピリルム』は、その生理機能と形態に由来しています。ギリシャ語の「アゾト（azote）」は窒素を意味し、ラテン語の「スピリルム（spirillum）」はらせん形を意味します。したがって、この属名は「窒素に関わるらせん菌」という意味合いを持っています。これは本属の窒素固定能力と特徴的な形態を示唆しています。

アゾスピリルム属細菌は、その窒素固定能力と植物との共生を通じて、土壌生態系における窒素循環に重要な役割を果たしており、持続可能な農業におけるバイオ肥料としての利用も期待されています。

参考文献

Paul Singleton, Diana Sainsbury 著、太田次郎監訳『微生物学・分子生物学辞典』朝倉書店、1997年3月。
発酵研究所監修、大嶋泰治ほか編『IFO微生物学概論』培風館、2010年12月。

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