アタメ

『アタメ/私を縛って!』：衝撃と愛の狭間で揺れる、異色のラブストーリー

1990年、スペインが生んだ鬼才ペドロ・アルモドバル監督が放った『アタメ』（原題：¡Átame!）。日本では『アタメ/私を縛って!』のタイトルで公開された本作は、型破りなストーリー展開と、アントニオ・バンデラスの圧倒的な存在感で観客を魅了するロマンティック・コメディです。一見、暴力的な印象を与えるタイトルとは裏腹に、繊細な人間ドラマが織りなす、アルモドバル監督作品らしい奥深い作品となっています。

物語の中心人物は、リッキー。3歳の時に孤児となり、暴力的な性格ゆえに青春時代を精神病院で過ごした彼は、23歳で退院後、まっとうな人生を送ることを決意します。そして、彼のターゲットとなったのが、かつて一夜を共にした元娼婦で、現在はB級ポルノ女優として働くマリーナでした。

リッキーは、何の連絡もなしにマリーナの映画撮影現場に突然現れ、求愛を開始します。しかし当然、拒絶されてしまいます。彼の行動はそこで終わりません。彼はマリーナのアパートに押し入り、ベッドに縛り付けてしまうのです。

この衝撃的な展開から物語は始まりますが、意外にもリッキーはマリーナに対して性的暴行を加えることはありません。外出時には彼女を縛り付けますが、それ以外の時間では優しく接し、彼女の自由を奪うような行為は行いません。

最初は恐怖を感じていたマリーナですが、リッキーの意外な優しさや、彼の抱える複雑な過去を知るにつれて、次第に彼に惹かれていきます。一見、異常な関係に見える二人の間には、奇妙な愛情が芽生え始めます。そして、ある出来事をきっかけに、マリーナはリッキーへの愛を受け入れる決意をするのです。

アントニオ・バンデラスが熱演するリッキーは、暴力的な過去を持つ反面、繊細で傷つきやすい一面も持ち合わせています。ビクトリア・アブリルが演じるマリーナも、複雑な人生を歩んできた女性であり、彼女自身の心の葛藤が丁寧に描かれています。

二人の演技はもちろんのこと、アルモドバル監督特有の鮮やかな色彩、独特の演出、そして複雑で魅力的なキャラクターたちが織りなす物語は、観る者を深く引き込みます。

アメリカでの公開時には、MPAAからNC-17指定を受けるなど、その過激な内容も話題となりましたが、単なる過激映画として片付けるにはあまりにも繊細で、人間の心の闇と光を同時に描いた秀作です。

本作は、1990年度フォトグラマス・デ・プラータ作品賞、アントニオ・バンデラスが映画男優賞を受賞するなど、高い評価を得ています。衝撃的な導入部、予測不能な展開、そして、忘れられない二人の愛の物語。アルモドバル監督の代表作の一つとして、ぜひ一度鑑賞することをおすすめします。

キャストには、マリーナ役のビクトリア・アブリル、リッキー役のアントニオ・バンデラスの他、ローラ役のロレス・レオン、マキシモ役のフランシスコ・ラバル、アルマ役のフリエタ・セラーノ、そしてロッシ・デ・パルマなど、実力派俳優たちが名を連ねています。彼らの素晴らしい演技も、この映画の魅力の一つと言えるでしょう。

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